探しているし見つけてしまう/カリム


甘いが甘すぎない、甘い匂いがふわりと香る。

「なまえか」

振り向いて呼ぶと、なまえはやや驚いたようにカリムを見上げ、すぐにぴしりと敬礼した。「バーンズ大隊長がお話があるそうですよ」その日の要件は誰でも良いような使い走りであった。「そうか」と軽く言われて、擦れ違う。
歩いてバーンズの元へ行ったカリムの背を眺めていると、なまえの後ろからタマキが「わあ!」と言いながらぶつかってきた。

「へへ、なにしてんだ?」
「……いや、なんか変だなって」
「変? 変ってなにが?」
「カリム中隊長」
「……ある程度は、いつものことだと思うけど」
「いや、喋り方の話じゃなくて」

「?」と首を傾げるタマキに今感じている違和感を説明するために、なまえは窓に寄り掛かり、一本の木を指さした。

「昨日はあそこで」

そして、三日前は食堂。書庫や今日みたいに廊下。一週間前は火事の現場だった。おかしい気がし始めたのは二週間ほど前。気にしてみると何度もある。ほとんど絶対だし、なかなか見かけることがないが、何度か見た限りでは他の人がそうであるようには見えない。なまえは言う。

「カリム中隊長はいつも、振り返る前に私だって気付いてるみたい」
「……なんだそれ?」
「……さあ。でも、今日もそうだったし。変だなと思って。タマキにはそんなことない?」
「え、気にしたことないけど。そんなに言うなら一回試してやる!」

活発に笑うタマキに「ありがとう」となまえが言う。
その後、有言実行でカリムに近付いたが、近付く前に毎度毎度ラッキースケベられが発動したせいで、情けない悲鳴が響き、タマキでは実験にならなかった。「うるせェぞタマキ」と五回目くらいで遂に怒られていた。



足音だろうか、と足音を消して近付いてもダメで、今日は事務仕事中にわざとやや後方の視界に入らない位置から近付いた。だというのに、やはり、カリムはなまえの存在に気付き、「どうした、なまえ」と言いながら振り返る。

「……書類を届けに来ました」
「そうか。ご苦労」

何度考えてみてもわからなくて、なまえは思わずじっとカリムを見つめてみる。おかしなところはない。実は、声をかける前にしばらくカリムを観察していたのだけれど、他の隊員の時は声をかけるまで顔も上げないでいた。
おかしくはないが、変ではある。不思議だ、と考え込む。

「……なんだ? まだ何か用か用事でもあるのか?」

一度は机に視線を落としたが、なまえが全く動かない為、もう一度顔を上げる。執務中だが、聞いてみてもいいだろうか。なまえはゆっくりと口を開く。手入れされたなめらかな唇が上下に離れた。

「いえ、とてもどうでもいいことなんですが、お聞きしたいことがあって。今、大丈夫ですか?」
「珍しくて稀なこともあるもんだな。お前から世間話とは」

やや目を開いて、顔だけでなく体もなまえの方に向けた。「言ってみろ」

「カリム中隊長って、どうして、見てもないのに私が来たってわかるんです?」

そして、カリムの表情がびしり、と凍り付く。

「……なに?」
「いつも。私が声をかけるより先に振り向かれますよね。どうしてですか?」
「……」

気のせいだ、と逃げることも出来たかもしれないが、なまえの言い分ははっきりしていて、誤魔化すのは大分苦しい。カリムがこの件を誤魔化してしまいたいのだとわかればなまえはそれに合わせるだろうが、断定的な問いかけに必死に否定を入れたら余計に怪しくなるかもしれない。カリムは重く息を吐き出す。

「……いつも、匂いが、するんだが」
「え、」
「香水か?」

なまえは深刻な顔で考え込む。確かに毎朝少しだけオイルを付ける。迷惑にならないように量には気を付けていたつもりだったが。

「……ひょっとして匂いキツイですか」

カリムが自分を匂いで認識していたとしたら、火事現場でもわかるほどに匂いがキツイことになる。例えここでカリムが気を使ってそんなことはないと言ったとしてももっと気を付ける必要がある。
なまえはそんな風に心配しているのだが、カリムはつい、となまえから視線を逸らしながらぽつぽつと言う。

「……いや」
「?」
「いい……香りだと、……」

そこまで言ってハッとして、がりがりと頭を掻く。

「って、クソ、変態みたいな変態じゃねえかこれじゃあよ……」

「忘れろ。忘れなきゃならないってことさえも忘れるくらいに忘れろ」とカリムは言うのだが、なまえは呑気に「気に入ったなら少し分けましょうか」などときょとんと返した。


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20191024:そこで今分けろって言ったら、手首を擦り合わせるイベント発生
ligamentさまからお題お借りしました。お題【ふわりと香る】)

 

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