vsカリム_過去編02


流石に仲良し三人組、とは呼ばれなくなってきたが、それでもまだ俺達は三人でいるものだから、なまえさん的には俺たちはいつもセットで、飯に誘われる時なんかも三人まとめてだ。個人的に誘われたい、と思いながら、はあ、とこっそり溜息を吐く。個人的に誘われたい。
フォイェンとレッカは俺の気持ちにすぐに気付いてどうにか二人にしてくれようとするのだが、なまえさんは「まあ二人なら今度でいいか」とさらりと言うので「いや、でも、」「それならそれで片付けたい仕事あるし」「う、そ、そう、ですね」二人が作ってくれたチャンスを活かせたことはあまりない。

「好きだ……」

食堂のテーブルに突っ伏していじけながらそう言うのを、フォイェンがゆるりと笑って、レッカは「その情熱!直接ぶつければいいんじゃないかッ!?!」と叫んでいる。ぶつけて勝算があるのならとっくの昔にぶつけている。ただの後輩が恋人になるにはどうしたら良いのか、実際にそうなった先輩の話を聞くこともあったが、どの作戦もなまえさんには通用しそうになかった。

「昨日もまた告白されてましたからねえ」
「……あの人は、気になってる好きな男いねェのかな」
「さあ。そういう話は聞きませんね。聞いてみては?」
「いるって言われたらどう責任取るんだ? あ?」
「落ち着いて。情緒安定させて。はい、深呼吸」
「ランニングするか!?」
「しねェ……」

そもそもモテる。そりゃそうだろう。なんだか調子よくねェなって日に顔を合わせただけで「? 風邪ひいた?」などと言いあてられて栄養剤もらって仕事を肩代わりされて「さっさと休め」と部屋に放り込んでくるような人そうそういない。
男女問わず人気があるのも当然だった。俺もまあ、その有象無象の一人なわけだ。それなのに、第一特殊消防隊の、あの人の後輩というだけである程度大切に扱われている。他の隊の奴よりは可能性があるとは思うが、まあ、誤差だ。

「あ、なまえさん」
「どこにっ!」
「ほら、あそこ。今ちょっと余裕ありそうですね、声かけてきては?」
「……」
「カリムっ! ほら、俺がついてるゼッ!!」
「あ、ああ……」

どうにかこうにか声をかけて、向こうで四人で食いませんかと誘うと「いいよ」と快い返事が返って来た。他からの視線がやや刺さるが知ったことか。隊服でもシスターの服でもなくトレーニングウェアを着ているので、これから筋トレでもするのだろうか。

「ん? ランニング。カリムも行く?」
「行きます」

フォイェンもレッカも爆笑していた。しかたねェだろ。なんでここで断るなんて選択肢が出て来るんだよ。オイ、笑うな。なまえさんは「なに?」と首を傾げてパンをかじっていた。こうしているとただの普通の女性なのに。……ランニングコースは思い出したく無いほど長くハードで、付いて行くこともできなかった。クソ……こんなことで男に見られるはずがない……。



「ほい。おめでとう」

その花束は俺達三人ともに贈られていた。中隊長に昇進したからその祝いの品だ。「なにが良いかわからなかったから」とのことだが「花束贈られるなんてでも、人生に何度もないからいいかと思って」とも言っていた。「しばらくは部屋で三人の癒しになってくれることを祈る」俺は一際感動して泣きそうになった。花束はそれぞれのイメージカラーで作られているようで、俺のには水色の花が入っている。
全然そんな雰囲気ではなかったけれど、いろいろ仕舞って置けなくなってつい。つい、その日、衝動のままなまえさんの所へ行った。
勝算は一つもない。

「好きです」

と言ってしまった。なまえさんはぽかん、と口を開けた。誤魔化されてしまうかも、と不安だったが、なまえさんはそんなことはせず、じっと俺の気持ちを観察するように黙っていた。ぐ、と眉間に皺を寄せる。何か大切なものでも失ってしまったような、悲しい顔だ。そんな顔をさせたかったわけではない。なまえさんは極めて真摯に俺に言った。

「ごめん」

期待、していなかったわけではない。
中隊長ともなれば、第一特殊消防隊の代表格として名を挙げられる。出会った頃に比べたら組手も、なまえさん相手に粘れるようになったし、ランニングも、最初よりはましだ。

「そんな風に見たことないし、見られると困る」

けれど、こうなることも予感していた。
同性でさえ特別な人を作らないこの人は、また資料に視線を落とした。話は終わりだった。
俺は自室でなまえさんに貰った花束を抱きしめながらちょっと泣いた。別の日に、花束は花屋みてえな花屋に任せたものではなく、なまえさんが作ったものだと知った。そういうところだチクショウ。聖陽教の教典に水色の花を挟み込んで、今でもまだ、この押し花はここにある。


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20200217(一回目)

 

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