20200214/ジョーカー


近い内にギャンブル行く? となまえが聞くので「そうだな、明日くらい顔だしてみるか」と答えた。「私も一緒に行っていい?」……正直こいつが来ると俺はまったく勝てなくなるのだが、まあいいかと許可をした。「いいぜ」と。
ただの暇つぶし、と言うよりは目標金額があったらしく、連れて行くと適当な卓(本当に適当な卓)に座り、二、三勝負をするとあまりにも勝ち過ぎる為イカサマを疑われ始めた。なまえもその空気は感じ取り、さっと席を立ち「じゃあ、私先に帰るね」といくらか稼いで帰って行った。
そんなことがあったのが数日前で、あの金は何に使ったのだろうか。今のところなにかをしたとか買ったという話は聞かないし、見た目に変化もない。連日ふらふらと出かけているが、手ぶらで帰って来る。
今日あたり、どんな悪だくみしてるのか聞いてみるかな、と思っていると、なまえは秘密基地に大量の紙袋を抱えて帰って来た。どこからか甘い匂いもする。

「ジョーカー! ハッピーバレンタイン!」
「バレンタイン? ああ、バレンタインか……」

となると、紙袋の中身はチョコレートか。
がさがさと紙袋を持ったまま、どーん、と俺にぶつかってきた。抱きとめて、わしわしと頭を撫でてやると、満足そうに笑っている。

「期間限定のチョコレートフェアに行ってきたんです」
「行ってきたのか」
「だからこれ皆で食べましょうよ」
「皆」
「リヒトくんも来たら一緒に」

なにやら俺のイメージしているバレンタインとは違う気がするのだが、なまえ的にはチョコレートがあればオッケーらしい。袋から中身を出しながらこれは生チョコでこれはお酒が入っていて、これはなんかよくわからないけどテリーヌショコラとか言うらしいどうのこうのと説明している。きっとリヒトが来たら全く同じ説明をもう一度するのだろう。
なんとなく気分で「手、洗ってこい」と言うと「はあい」となまえは素直に手を洗って戻って来た。ソファに座り、なまえを膝の間に座らせて、捕まえて来たチョコレートの群れに夢中になるなまえをぼうっと眺める。

「どれあけますか?」
「あー、じゃあ、」
「あ、これ。これがいい。この瓶の、いちご入ってるやつ。このお店すごい人気で、待機列が階跨いでました。二つくらい」
「言ってる意味がわからねェよ」
「ん? こう、店があって、列がこう、こんな感じで伸びて、階段、で、また列がこうぐるーってあって、階段で、列、フロアの半ばくらいに最後尾って札立ってる人が居て」
「並んだのか?」
「並びました」
「一人で?」
「一人で」

それは楽しいのだろうか。俺なら絶対にやろうと思わない。どれをあけるか聞いたくせに、結局自分が食べたいものをまずあけたことも忘れて、なまえの最近の行動を振り返る。

「毎日その祭りに行ってたのか」
「うん。下見。すごい人で。どこにどの店があってどう回るのがいいかなあって下調べしてました」
「ご苦労なこったなァ……」

楽しかったですよ。となまえは笑いながら、ビンの蓋についているリボンを解いて、中身を一つ取り出した。白いチョコレートの中に苺がごろごろ入っている。

「はい」
「あ、」

自分が食うより先に俺に差し出したので、俺は口を開けて貰ってやる。

「なんだこりゃ、うっま」
「本当?」
「おい、俺に食わせてねえでお前も食え」

階をまたぐ程人気が出るのも納得だ。納得か? いや、まあいい。俺はなまえがしたのと同じように瓶の中から一粒取り出し、なまえの口に持って行く。「ほら」「むぐ、」

「うっまあ」
「だろ」

頑張ってよかった、となまえは頷きながら瓶の蓋を閉じて、リボンを元通りに結び直した。いや、ちょっと歪んでいる。そしてその瓶は「はい」と言って俺に差し出される。元々距離が近いから、俺の顔となまえの顔との間に瓶が割入って来た。なまえは瓶に隠れながら言う。

「これはジョーカーにあげます」
「あ? なんでだよ。皆で食えばいいだろ」
「バレンタインだから」
「バレンタインだからチョコ買い漁って来たんだろ?」
「そう。でもこれは、一番苦労して買って来たやつだから、ジョーカーにあげるんです」

なまえの考えていることは大体わかると思っているのだが、日々新しいものを吸収して、いろいろなものに影響されて生きているなまえの思いつくことに追いつくのは難しい。今隣に居たと思っても、数秒後にはかなり前で手を振っている。昔からそうだが、今でもその勢いは衰えていない。

「バレンタインは、すきなひと、に、特別なチョコレートをあげる日ですよ」
「……」

はあ? はあああああ? なんだそりゃ。なんだこいつは。俺はぎゅん、と胸の奥の臓器を鷲掴みされたような気持ちになってぱし、と手のひらで顔を隠す。あー。ああーーーーーーー。

「ジョーカー?」

ぎゅう、と抱きしめると、きょとんと首を傾げている。なまえの赤い顔を見詰めていたいが、それはつまり、俺の顔も見られるということだから今は無理だ。腕の中に閉じ込めて、肩に顔を押し付けて、手探りでなまえの手を探す。瓶となまえの手とを一緒に掴む。

「ありがとな」
「どういたしまして」

ふふ、と満足そうに笑うなまえの気配に誘われて顔を上げる、俺の方を見ているなまえに顔を近付ける。「目、閉じろ」どっちだって構わないが今の俺はあまりかっこいい顔はしていないだろうからそう言った。「ん」と素直に両目を閉じるなまえにまた体の中を荒らされる。なまえ。なまえ。……なまえ。

「ふふ」
「……」

触れるだけのキスの後に、なまえが幸せそうに笑うから、俺はもう一度なまえを抱きしめた。はあ。どこにもやりたくねェ。


------------------
20200210:多分リヒトくんにも「これは二番目に大変だったやつ」などと言いながらあげる。

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -