20200214/52


※学園パロディです。苦手な方はご注意を。

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登校中にいくつか受け取った。兄貴に今年も大量だろうから持って行けと言われて持ってきていた紙袋を広げて中に入れる。下駄箱を開けるとばさばさと雪崩が起きる。この時点で紙袋一つ目は一杯になる。教室に入ると机の中と上にぎっつり詰めて入らない分は乗せられていた。二つ目の袋を開いて押し込み、ようやく席に座る。
クラスの男からの視線が痛いが、俺はそわそわとあいつが登校してくるのを待つ。

「うわっ、なんだそれチョコ?」
「! なまえ」

隣の席の椅子を引いて、なまえはどさり、と机の上にいつものスクールバックと、見慣れない紙袋を置く。

「おはよう。人気者だねえ。大変だ」
「おはよう。毎年こうだから慣れた」

「あはは。そんなこと皆言ってみたいんじゃないかな」なまえはへらりと笑って席について、そのまま本を読み始めた。……。今、じゃ、ないのかもしれない。他に人もいるし、二人になった時とか、帰りとか、もっと人目が無い時にくれるに違いない。



などと、昼を過ぎる頃までは思っていたのだが、だんだん不安になってきた。俺はなまえとは異性で一番仲が良い自負がある。だと言うのに、貰えない、なんてことがあるのだろうか。バレンタインと言えば、女子だって菓子を交換したりして色めき立つイベントではないのか? 事実、昼には友達同士で手作りのチョコを交換していたし、知らないわけではないはずで。
一日中そわそわとしながら隣をちらちら見るけれど、目が合うと「なに? 教科書忘れた?」などと言われるばかりで、バレンタインの贈り物をくれるという雰囲気ではない。
とうとう、午後の授業も全て終わり、なまえは俺にあろうことか。

「じゃあ、52。また明日」

と言った。
また。明日。
俺は慌ててなまえのスクールバックの紐を掴む。

「……っ」
「ん? なに?」
「なにって、」
「え?」

まずい。これはまさか。

「ちょっとこっち来い」

俺はそのままなまえの鞄をぐいぐい引っ張って人が滅多に通らない屋上へ続く階段の踊り場で止まる。くるりと振り返ると、なまえは困った顔で俺を見ていた。「えーっと、どうした?」どうしたではない。それはこっちのセリフだ。

「お前からは、ないのか」
「なにが?」
「なにって、今日の」
「えっ、チョコ?」

こく、と頷くと、なまえは信じられないと目を丸くする。信じられないのはこちらだ。去年まではあったじゃないか。保育園時代から毎年欠かさず。それがどうして今年に限ってないということになるのだろう。

「いる?」
「なんでいらないと思うんだ」
「いやだって、52めちゃくちゃ貰ってるし、私があげたって毎年反応薄いし、皆にお返ししてるでしょ?」
「お返しはなまえにしかしてない」
「え?」
「なまえだけだ。毎年。ちゃんと返してるのは」
「ええ……?」

なまえは「あー」「うーん」と唸った後、「ごめん!」と爽やかに謝って逃げようとした。逃がすわけがない。俺はすぐさま腕を掴んでずい、と詰め寄る。

「楽しみにしてたんだぞ」
「いやまさかごめんねそうとは知らず……。来年は用意します」
「今年のは」
「今年のはないもん」
「……女友達には手作り配ってただろ」
「あれは人数分しかないよ」
「なんでだよ」
「だから、だって52一杯貰うし……」
「俺はなまえからのが欲しい」
「強欲かあ……?」

そういうことじゃない。別になまえからのがもらえるのなら、他のはいらない。どうにもなまえにはうまく伝わらない。「なんかあったかなあ」となまえは鞄を漁り出す。「あ」何か見つけたようだが、見つけたものを鞄の奥にわざわざ隠して俺に言う。

「ごめん! 飴玉一つとかもないわ! 帰りにどっかで買うから許して」
「毎年手作りだろ」
「だから今年は用意してないって……。そんなに言うなら明日持ってくるから」
「今日がいい」
「ワガママか!?」
「今隠したそれは」
「えっ、か、隠してない。隠してないから」
「隠したろ」
「隠してない。何も持ってない。ましてチョコレートなんかじゃ断じてない」

……。俺は有無を言わさずなまえの持っているスクールバックに手を突っ込んで、つるつるした感触の何かを引き摺り出す。缶? 赤いハート型の缶で、開くとピンクや緑、白、つやっとしたコーティングのチョコレートが並んでいた。

「あーっ! ダメダメダメ! それはダメ特別な奴だから! 絶対ダメ!」
「なんで」
「私のやつなの!」
「これでいいぞ」
「やだよ! ほらそれ市販品! 手作りじゃない! 条件満たしてない!」
「でも特別なんだろ」
「そりゃ特別だよ、先月バイトがんばって自分用に買った高いチョコ! 半日かけてわざわざ並んで買って来たんだからね!? 一粒五百円くらいするやつ!!!!」
「高くないか……?」
「高いよ!!!」

なまえは俺から缶を奪い取ろうとする。危ないから蓋を締めて、ひょい、と上にあげる。

「ちょっと!?」
「ホワイトデーにちゃんと返す」
「嫌だよ、52なんか微妙に外したの買ってくるの超得意じゃん!」
「? ありがとう」
「褒めてない!」

ぜー、はー、と息を荒げて抵抗するなまえだが、俺も諦めるわけにはいかない。なまえから何もないバレンタインなどバレンタインではない。

「返して」
「……」

とは言え、なまえの表情がどんどん険しくなっている。これは相当怒っている時の顔だ。俺は別に、なまえを怒らせたいわけではない……。これ以上はまずい。このまま続ければ二週間くらい口をきいてもらえないかもしれない。

「どうしてもダメか」
「……ダメ」
「どうしても?」
「……、……ダメ」
「……」
「……」
「…………なあ」
「…………っ」

はあ。となまえが溜息を吐く。よし。これはなまえが折れてくれる時の音だ。

「いいよ、わかった……。絶対、ホワイトデーに同じかそれ以上のやつ返してね……」
「! ああ」

じゃ、となまえはとぼとぼと部活に向かった。
俺はすっかり満足して帰ったわけだが、帰るなり特別大事に持っているこれを兄貴に見つかり、ぎょ、と身を引かれた。

「お前それ、めちゃくちゃ高ェやつじゃねえか。誰に貰った?」
「? なまえ」
「……、お前本当にそれ貰ったのか?」
「……最終的にはくれるって言った」
「あー……(可哀そうになあ、なまえの奴……)」
「なんだよ」
「いや。なんでも。そうだな。明日いいもんやるから家に寄れって言っとけ」
「?」

なまえから貰った(奪った)チョコレートは確かに高いだけあってめちゃめちゃ美味かった。さて。ホワイトデーにはどんなものを返してやろうかな。


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20200207:どうしても書きたかったんです許してくださいお願いします。↓おまけ

「よう、なまえ。昨日は家の弟が悪かったな。これ詫びだ」
「え、え、ええー!?!? これ、これ一粒千円くらいするやつでは……? 貰っていいんですか!?」
「おう。大事に食えよ」
「ああああありがとうございます!」
「おい? なにこそこそやってる?」
「ジョーカーさん大好きです!」
「は!?」
「ハハハハ、いつでも俺に惚れていいぜ?」
「はあ!?」
「あああああもう嬉しすぎる抱き着いていいですか?」
「よし来い」
「何やってんだ絶対ダメだからな!?」

(「クソ……、なんでいつもお前ばっかり……」「そりゃお前がなまえのことわかってねェからだよ」「なっ、俺の方がなまえと一緒にいる時間は長い!」「残念ながら俺のが大人なんでね」「関係ないだろ」「お前、今日のなまえ見てもそんなこと言えんのか?」「ぐ……」)

 

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