013
「なまえさんは平気なんですね……」
一瞬どう答えるべきか迷う。人生の半分くらいは地下で生活していた。それに、真っ暗で誰もいないような地下だ。ぐる、と見回すと、桜備大隊長と、火縄中隊長、マキさん、タマキさん、アイリスさんに、ヴァルカンさん、シンラさん、アーサーさん、そしてリヒトくん。更には服の下で揺れるネックレスに意識を向ける。
「うん、一人じゃないですから」
「! そう、そうですよね! 皆一緒ですもんね!」
とは言いつつ、ぱき、とどこかで音がして、体を震わせていた。「とは言っても、怖いものは怖いですけど」と恥ずかしそうに笑うマキさんに、私もにこりと笑って返す。きっと戦いになるのだろう。リヒトくんには、「無理をしないように」と言われている。しなくてよい戦闘はするな、とも言われているが、それはどうだろう。わからない。
紺炉さんに原国式の剣術を習ったけれど、私の根の部分がそうそう簡単に変わっているとも思えない。
できるだけ、殺さないように気を付けて――……。
「霧!?」
ぶあ、と数センチ先の視界をも覆ってしまうような霧が立ち込め、私はすぐに、リヒトくんの腕を掴む。
「えっ、」
が、掴もうとしたのは幻で、本物は。
「リヒトくん!」
しまった。手でも繋いんでおくんだった。
■
気付いた時には周りに誰もいない。逸れた時用にと持たされた明かりに火を点ける。一応炎を扱う能力者なのだから、マッチくらいの炎は出せたらいいのに、と思うのだが、できないことをぐだぐだ言ってもしょうがない。
別に見えなくたって困りはしないのだ。
「がっ、あ」
こんな、有象無象の相手をするくらい。
手間ばかりかかった。白装束も人員が潤沢というわけではないらしい。
持ってきていた刀を仕舞うと、転がした白い人たちを避けながら先に進む。先、かどうかはわからないが、これらが来たのはあちらだったから、最深部はこの人たちが来た方向なのではという、雑な推理だ。
「早くリヒトくんと合流しないと」
ちり、と、炎は使えないくせに、胸の奥が不穏にうずく。しかし、リヒトくんと、ジョーカーのことを思い出すと、少しずつ収まって来る。転がした白装束は死んではいないはず。今回は、一人も殺していないはずだ。……殺しはしたくない。殺したくない、はずだ。
「!」
かなり前方に明かり。
そして、一人背の高い人がいる。あの青線の位置だったら、あの人は。
よかった。割合にすぐに合流できた。
私はすう、と息をひそめて、ぐっと距離を詰める。
すぐ隣にいる白装束を、一撃で。
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20200206