20200214/女子組(A)


「え? チョコを買いに? 絶対やだ」

断り方がまずかったのだと、なまえは今になって思う。皆を撒くには力が足らない。それでも、一時間は逃げ回っていたのだから大したものだ。最終的にヒバナ大隊長の能力で動けなくさせられた。
三日前から、チョコレートの有名店を集めた祭典に行くのだと女子達(私を除く)が盛り上がっていたから、皆が行くのは知っていたが、まさかその予定に私も組み込まれているとは思っていない。連日報道される込み具合。本番の日が近付くにつれ増えているらしい。自殺行為だ。人混みが苦手な私はそんな祭りに参加できない。
だと言うのに。

「よしッ! アイリス! 縛り上げろ!」
「ガッテンです、姉さん!」

なんでだよ。なまえは動けない間にす巻きにされ、マキとタマキに抱えられた。

「悪く思わないで下さいね」
「今回は総力戦だからな!」

意味がわからない。まさか店を制覇でもするのだろうか。そんなこと考えついたとして実行するのは、正気ではなくないか。いや、ただ単に巻き込みたかっただけの可能性もある。だとしたら最高に罪深い。

「アンタは気になる奴いないの?」
「いや別にいません」
「なまえさんは皆さんと仲が良いですからねえ」

良いっけ……、壁の方で一人でいることが多いと思ってるけど……。話すことも割と最低限な気がする……。一体どこを見たら皆と仲が良いように見えるんだ……? 陰謀の香りがする。なにか大変面倒なことに巻き込まれている気配だ。いや、この祭典に連れて来られたのは序の口で、これからもっともっと面倒なことが起こる、そんな予感が堪らなくする。なまえはぶる、と体を震わせた。

「さあ、着きましたよ……」

ふふ、と笑いながら、なまえの体は解放される。人がすごいし、視線がひどい。ここまで来たら逃げはしないが、ここで自分はなにをするべきなのだろう。

「なんで用事もないのにこんな人混みに……、正気じゃない……。自分がもらえるわけでもないのに……」

あ、自分用に買えばいいのか? いや、自分用に五千円のチョコレートを買うのもハードルが、などとぶつぶつ文句を言っていると、ばし、と、まず、シスターに背を叩かれた。「痛い」

「さあ、なまえさんッ! 桜備大隊長に選んで下さい!」
「え、なんで」
「あ、なまえさん。火縄中隊長のもお願いしますね」
「ん? なんで」
「なまえ! リヒトさんとヴァルカンの分も忘れんなよ!」
「だから、あの」
「ああ、なまえ。シンラとアーサーにもね」
「……なんで?」
「他の砂利共にも買ってやれ」
「ヒバナ大隊長まで……?」

なんで? と言いながらも折角来たのだからと言われた通りに第八や第八に出入りしている男性陣にチョコレートを買い、当日「はっぴーばれんたいん」などと言いながらチョコレートを渡した。事情を知らない男性陣は「あのなまえが……?」としばらくざわつき……。そして、この事件を受け、ひょっとして可能性があるのではと勘違いした男性陣の、なまえの本命になるための戦いの日は、一月後に訪れる……。


--------------------
20200206:曰く、なまえさんが恋に困るのが見たくて、つい、だそうだ。なんてことだ。畜生。お前の罪を数えろ。

 

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -