「ヒーローですから」/森羅


「ありがとう。助かったよ、森羅くん」人を助けたり手伝うにしてもその人によって個性がある。なまえさんの手伝いは目的が明確で指示も正確だからやりやすい。その上、必ずお礼を言ってもらえて「いえ、自分、ヒーローですから」と緊張気味に返すと優しく頭を撫でられる。

「そんな頑張り屋の君にはこれをあげよう」
「! なんですか?」

右手のひらをぱ、と俺の前で開く。しかし、なにもない。「あの? もしかしてからかって、」ますか、と言葉の途中でぐ、となまえさんが手を握り、再度、ぱ、と開く。赤い飴玉が一つ現れた。

「すげェ! 手品ですか!?」
「そう。簡単なやつだけど、小さい子とかには結構受けが良くて。はい。いつもありがとう。今日のところは飴玉で」

そのうちビッグなお礼するよ。肉とか。と急に現実的なことを話し始めるから、面白くて笑ってしまった。それにしても肉か。ステーキだろうか。焼肉だろうか。すきやきとかハンバーグとかでも嬉しい。なまえさんがしてくれると言うなら、本当だろうと思うので、純粋に楽しみだ。

「今度俺にも手品、教えて下さい」
「いいよ。じゃあまた時間ある時に声かけるから待っておいて」
「はい!」

なまえさんはなんというか、タマキなんかと比べては申し訳ないが、とにかく危なげがない。安定感があって、隣にいると安心する。俺は貰った飴玉を握りしめながら、なまえさんの背中を見送った。

「堂々としてるってのはヒーローとしても大事な事だな……俺も見習わないと……」
「だが、このままじゃ、姉弟みたいだぞ?」

気配もないまま、後ろから声だけが聞こえた。びくりと震えて慌てて振り返る。

「わあッ!? だ、大隊長いつの間に……」
「悪い悪い、ヒーローですから、のあたりかな」
「結構前からですね……、じゃなくて、えっと、え、俺となまえさん、似てますか……!?」
「喜ぶところかそれ……? いや、雰囲気がだよ。手伝いして頭撫でられて飴玉貰ってたら完全に身内だろ」
「か、家族に見えますか俺達!?」
「だからいい意味じゃなくて……」

男と女の関係には間違っても見えないって話だよ。と、桜備大隊長は言った。……男と女。ってことは……。つまり……?

「!? じ、自分、そ、そそそんなつもりでなまえさん手伝ったりしてるわけじゃ……!!」
「なまえだってそれはわかってる。だがな、ふふ、ここで男として意識してもらえる魔法の言葉を教えてやろうか」
「え、そんな言葉が……!? 教えてください!!」
「よし! よく言った! それでこそ男だ!」
「押忍!」
「いいか、一度しか言わないからよく聞けよ。それはな、」

ごくり、と唾を飲み込んで、桜備大隊長の言葉を頭に叩き込んだ。



「今日も手伝ってもらって悪いね、森羅」
「いえ、自分、男ですから!」

いつもとセリフが違ったからかなまえさんは少し目を見開いて驚いていた。すぐに「そっか」と笑って、「うん、ありがとう」とお礼を言って貰えた。のだが。
この日は何故か、頭を撫でられることもなく、何かしらのお菓子を貰えることもなかった。……撫でてもらえる頭でいたせいで、ちょっと、後頭部が、スースーする。

「あれ………?」

大隊長? 本当にこれで良かったんでしょうか……?


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20191022:「そうだよね、頭撫でたりお菓子あげたりはさすがになかったよね。森羅だって男の子だものね。気を付けてあげないと」「なまえ、飴玉くれ」「……君はわかりやすくていいね、はいどうぞ」

 

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