正しくない節分の日/紅丸、紺炉


寒いし無理だって、いやほんと、え? あとでおしるこ? いやいや、そんな話じゃなくて。キツイってこれ。由緒正しき鬼の仮装だから? いやそういうの、そういうのあんまり興味ないし、男の夢? それこそ知らんし、知らんて。無理無理、真冬にする格好じゃないから。恵方巻き好きな具を入れてくれる? ……いやいやいや、食べ物で釣ろうってのはね、よくないですよ、豆はぶつけないからって、それじゃ鬼の役してる意味は? なに? 外に出なくてもいい? この部屋だけで? そ、それこそ意味は? 待った待った待った待ったなんで二人してにじり寄ってくるんです、おかしいおかしい、手伝ってやるからさっさと着替えろ? わかったわかったわかりました! わかりましたから出てってくださいもう! ……はあ。……ん? なんで着ることになってるんだ……?

「おお……!」

虎柄のバンドにパンツそしてブーツを履いた私は頭に小さな角のカチューシャまで付けている。元ネタのキャラクターはかわいいが自分でこれはしんどすぎる。ひょっとして新手の拷問? ほとんど下着みたいな格好を無理やり女の子にさせるのはどうなの?
浅草を代表する二人は私の姿を見るとわかりやすく目を輝かせていた。ええ……?

「はい。着た。寒いしもういいですよね?」
「とりあえず一枚撮らせてくれ」
「嫌ですよカメラしまってください叩き壊しますよ」
「……」
「なにそうっと胸つつこうとしてんだやめろ!」

ばち、と紅の手を叩くと「いてェな」と文句を言われた。文句を言いたいのはこちらだまったく。体を隠そうと腕を真ん中に持っていくと自然と胸が寄ってしまってそこに二人の視線が集まる。

「顔ならいいかい?」
「ええー……?」

紺炉さんがカメラを置いて私の方に手を這わせている。頬を摘んだり撫でたりもちもちと押したり。これになんの意味があるのだろう。その間にも紅は私を舐めまわすように見ているし。
紺炉さんの手は無遠慮に私の唇を触り始めたので、かぷ、と噛み付いてやった。歯型がついたが、すぐに消えてしまう程度のものだ。「おい、」紅は何故か悔しそうで、紺炉さんは嬉しそうににやりと笑う。

「……これは、所有印だな?」
「へ?」

紺炉さんがそんなことを言うものだから紅まで私の顔に手を近付けてきて、とんでもないことを言う。

「おい、噛め」
「無理……」
「ほら、」
「ええ……」
「紺炉には噛み付いたじゃねえか。だったら俺にもしろ」
「もうしない……」

首を左右に振っていると、紺炉さんの腕が腰に回って、引き寄せられた。裸同然のコスプレ女を膝に乗せて、紺炉さんは紅に言う。

「その辺にしといてやったらどうだ?」
「おい、寄越せ、何独り占めしてんだ。そういう雰囲気になったとしても分け前は半々の約束だろうが」
「なんの話ししてんの怖すぎ」

近くに居てはいけない。エスカレートしだす前に逃げた方がいい。私の本能が告げている。私はもぞもぞと紺炉さんの腕から逃れようとするのだが、紺炉さんがとんでもないことを口走る。

「なまえよォ、俺は別に構わねェんだが……、その格好であんまり動くと、尻の形がハッキリわかって興奮するな……?」
「ヤバすぎるそのセリフ……」
「そういうことなら俺は上を貰ってもいいな?」
「そして君はだからなんの話しを」

逃げようと紺炉さんから離している上半身をぎゅ、と掴まれた。いや、抱きしめられた。これ。紺炉さんと紅の位置かなり近いと思うのだけど、それはいいのだろうか。

「は、離して貰えません?」
「いやあ、これは間違いなく据え膳だろう。逃す手はねェよ」
「大人しくしてろ。悪いようにはしねェ」
「もう既に酷い目にあってるんだよなあ……」

紺炉さんの手が私の剥き出しの太腿を撫でて居るし、紅は紅で私の肩甲骨を指でなぞっている。やめろやめてくれホントこいつら。

「ちょっと、だーりん、って言ってみてくれ」
「だーりん……」
「もっと心込めろ」
「ダーリン(はあと)」
「今のは俺のことだな?」
「ふざけんな、俺だろうが」
「この人たち大丈夫かな……」

少し腕が緩められたと思ったら畳の上に寝かされた。紺炉さんに両足を押えられていて、紅に両肩を封じられている。

「とっくに大丈夫じゃねェから、観念しな」
「俺たちをこんなんにしちまったのはお前さんだからな」

責任を取ってもらわなきゃ困る、などと。その責任は転嫁されただけで、きっと私のものでは無い。と言うかこの流れ本格的にまずい。

「いやいや、はなしてください。百歩譲って写真撮って良いですから離して」
「折角イイ格好してるから、このままするか」
「あ? もういいだろ。靴だけで」
「ちょっと、ホントに怒りますよ」
「なまえ。後からちゃんと介抱してやるからお前は覚悟だけしてな」
「なんの覚悟?」
「今日一杯は俺たちの相手をする覚悟だ」
「死んでしまう」

恵方巻きがどうのこうの、恵方はどっちだもうちょっと右に回れなどと話しているが、そんな下の話とごちゃ混ぜにされては恵方巻きくんもさぞ心外だろうよ。
私は大きくため息をついた。

「あー、もう、しょうがない、私離せって言いましたからね、」

ぱち、と顔の横で電気が爆ぜる。
紅と紺炉さんがぎょっとして私を見るがもう遅い。

「せーのっ」

プラズマを無差別に拡散させて、逃げた。人が多いところでは巻き込んでしまうからなんとも使いにくいが、こういう時には大変に役に立つ。
世間は、健全な節分の日を過ごしていることを祈る。


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20200203:渾身の節分ネタ(ほんとか?)、やりすぎるから写真すら撮らせて貰えませんでしたとさ。

 

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