特効薬/ジョーカー


自室に人の気配を感じて恐る恐るドアを開けると、案の定ベッドの上でジョーカーが寝ていて盛大にため息をついた。

「あの、ちょっと? ……もしもーし?」

リヒトさんの知り合いであるらしいこの男は、どうしてか時折私の部屋に入り込み、更に私のベッドを勝手に使い、こともあろうに熟睡している。
第八特殊消防隊は今日も平和で、寮にこんな不審者の侵入を許してしまっている。

「起きて下さい、ねえ、ジョーカーさん」
「んぁ? ああ、お勤めご苦労さん」
「はい、それはいいので起きてください」
「なんで」
「私がベッド使えないからですよ」
「いいじゃねェか、一緒に寝てやるよ」
「寝てやるじゃなくて。ここは私の部屋なんですよ。起きて」
「あー」

ジョーカーは体をずるずると動かしてややベッドの端に寄る。丁度なまえが一人寝転がれるだけのスペースが空いた。

「詰めてやったぞ」
「詰めてやったぞ、ではなく」
「うるせえなあ」
「本当にたたき出しますよ?」
「やれるもんならやってみな」
「……」

仕方がない。なまえは自室の窓を大きく開けて、ジョーカーが覚醒しきる前に腕を掴んで放り投げた。「よいしょー」ふわ、とジョーカーの体が浮いて、窓の外に放り出される。

「本当にやるやつがあるか!」

ジョーカーは窓枠に捕まりそのまま落ちることはなかった。これで完全に眠気が覚めて、なまえの部屋に這い上がると、指先でなまえの額を何度も小突く。

「だってやってみろって。もう一回やりましょうか」
「やめろ馬鹿力」
「え?」
「俺が悪かった」

袖を捲り上げるなまえに、降参だと両手を上げた。なまえは「わかればいいんです」と腕を収めてベッドに寝転がって読書をはじめた。
ジョーカーはベッドサイドに腰かけて、子難しそうな文字を追うなまえの横顔をじっとみている。先程まで全身を支配していた眠気は飛んでしまった。だと言うのに、なまえは本に夢中でジョーカーが居ることなどお構い無しで読み進めている。

「おい」
「なんです?」
「せっかく俺を叩き起したってのに放置するつもりか?」
「え?」
「だから。起こしたのなら俺と遊べよ」
「ん?」
「駄目だ聞こえてねェな」

集中すると周りの音が聞こえなくなるタイプはこれだから困る。ジョーカーはなまえの関心がこちらに向いていないのをいいことに、再び布団の中に潜り込んだ。なまえの顔がいくらか近くなって、つむじの向きまで確認できる。

「お前、いい匂いがするな」
「ボディソープ新しくしましたからねえ」
「聞こえてるじゃねえか」

ジョーカーがぎゅ、となまえを拘束すると「うわ、」なまえは本だけ庇って体は抱えられるままに抱きしめられていた。その状態でもまだ文字を追いかけようとしている。眠気は覚めたと思ったが、こうしていればまだまだ眠れそうだった。

「夜更かししてねェで寝るぞ」
「自分が寝たいだけでは?」
「馬鹿言え寝かせてやるんだよ」

状況的にはなにがあってもおかしくない。なまえはベッドサイドに本を置いて脱力した。言われた通りに眠ることにする。

「いい人なのか悪い人なのかわからない人ですねえ」
「今のところはいい人でいてやるから明かりを消せ」
「はいはい」

自分で出来るくせになまえにやらせて、ふっと、能力の行使により明かりがなくなる。暗くなると、月が明るい夜だと分かる。
ジョーカーはやや腕の力をゆるめる。それでも無理やり抜け出すのは難儀だろう。なまえを腕の中に囲い込み、大きく息を吐いた。なまえはやれやれとジョーカーの背中に手を回し、子供をあやす様にぽんぽんと叩く。

「お疲れ様。おやすみ」
「……」

なまえの言葉に返事はない。もう寝息が聞こえている。しかたのない人だ。いくらぐっすり眠れるからと言って女の子のベッドに潜り込んでくるのも、恋人でもない人間を抱き枕替わりにするのも、大概にした方が良い。
勘違いしてしまいそうだから。


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20200129:Ricoさんにリクエスト頂きいておりました第8所属夢主のジョーカー夢でした!ありがとうございます!!!

 

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