五分経ったら真剣勝負/バーンズ、52


52がなまえに懐いている。姉のような存在になればと引き合わせてみたら、予想以上に、52の方がなまえを気に入り、なまえが居ると傍へ傍へと行こうとする。と言うより、距離がおかしい。かなり近い。

「なあ、なまえ」
「ん?」

なまえも、最初こそ「近いよ」と言ったりしていたはずなのにいつの間にかその距離感を許している。お互いの息がかかるくらいに近くて、触れようと思わなくても少し体を捻れば触れてしまうような距離だ。
その距離感を咎めなければならないのはなまえのはずなのに、彼女も懐かれて満更ではなさそうなところが。

「少し離れろ」

52の首のあたりを掴み、なまえから引き剥がす。52はバーンズの行動理由がわかっているから忌々しそうに睨み上げるけれど、なまえはきょとんと眼を丸くしている。今にも、「どうかしました?」と聞いて来そうな顔だ。

「距離が近すぎる。どう控えめに見積もっても健全な男女の距離感ではない」
「そんなことないだろ。と言うか、健全な男女の距離感なんてバーンズにわかるのか」
「友人同士でもそこまで近付くことはない」
「そんなことねェ」

今にも額をぶつけ合って殴り合いがはじまりそうな雰囲気に「まあまあまあ」となまえがすかさず割って入る。……割って入る時、必ず52を庇うように立ち回るのもまた(多少はそうであってほしいと願っているのに)気に入らない。「落ち着いて」と言うなまえの背で、52がなまえの背にぴたりと張り付きながら、なまえにはわからないように、べ、と舌を出した。

「なまえも。お前が気を付けないでどうする」
「あはは。すいません、近いなとは思ってたんですけど。気を付けます」
「おい、なまえを責めることないだろ。なまえも別に気を付けなくていい。俺は今まで通りがいい」

なまえを挟んで再び飛ばされる火花に、なまえはいつの間にこんな剣呑な雰囲気になっているのかと52とバーンズの顔を見比べた。何かこの場をうまく切り抜ける為のカードはなかっただろうかと考え始める。しかし、目の前で起きている睨み合いは止まらない。なまえの不安を他所にばち、ばち、とぶつかる火花が大きくなっていく。

「そもそも、俺もなまえも嫌じゃねェなら、距離が近いとか遠いとか、バーンズが口を挟むことか?」
「なまえは私の部下だ」
「この前俺の友達になった」
「私の部下だ」
「俺の友達だ」

私の、俺の、と短く口論が続いた後、お互いに黙って睨み合う。

「やるか? バーンズ」
「いいだろう。かかってこい。52」

言いながら、二人ともがなまえをそっと自分の後ろへと引こうとする。バーンズと52にそれぞれ逆の二の腕を掴まれたなまえだが、どうにかこうにか目当てのものを鞄の中から探り当てる。これでなんとかなればいい、と勢いよく鞄からタッパーを取り出した。

「よしあった! おやつに持ってきたアップルパイが二つあるんです。とりあえずお茶でも淹れますから落ち着きませんか?」

ぴた、となまえの声に二人の男はじっとなまえに視線を落とす。アップルパイ。タッパーに入っているからきっと手作り。それが、二つ。

「二つ?」
「はい、52とバーンズさんで食べてくださいよ」
「……」
「……」

一時休戦、となるかと思われたのだが。

「手加減するなよ、バーンズ」
「負けても泣くんじゃないぞ、52」

勝てばなまえと自分の二人でティーブレイクだとバーンズと52は構えて向き合った。

「……え、いや、なんで……?」

なまえはタッパーを胸の辺りで持ったまま、しばらく52とバーンズが実践さながらの気迫で手合わせをするのを眺めていた。
声を掛けるのも躊躇われる勢いであったが、52が怪我をしそうになっていたのでアップルパイを人質に停戦させた。「今すぐやめないとこのアップルパイが食べられないくらい丸焦げになりますけど」などと炎を向けられたアップルパイに、なまえは心底同情した。



なまえに与えられたアップルパイをぺろりと平らげ、やや平穏な気持ちになったのもつかの間、52が憎々し気にバーンズを睨む。

「大体、バーンズはいいだろ。外の世界で散々なまえと一緒なんだから」
「私もなまえも暇なわけではない」
「ああ、忙しいから相手にされないのか」
「お互い大人だからな。一緒に居ることが全てではない」
「なら、俺が近かろうが遠かろうが関係ないはずだろ」
「……これは、そういう問題でもない」
「意味がわからねえ。素直に気安くて近いのが羨ましいって言えばいいだろ」
「……」
「言えねえの?」

第二回戦はそのように開始されて、再びなまえが止めに入るまで続いた。

(「ちょっとちょっと!なにやってんですか!」「なまえ、怪我した」「うわあ血出てる! バーンズさんやりすぎですよ」「(ざまあみろバーンズ)」「そこを退けなまえ」「ええええ?」)


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20200124:影母さんにリクエストいただいた、バーンズvs52夢でしたー! 書きたかった組み合わせだったので書かせて頂けて超嬉しかったです!!!!

 

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