永遠を願う/ジョーカー


思い出すとまだ面白いが、ひとまずそれは思い出さないようにしながら布団を叩いた。なまえが中で丸くなり、不貞寝している。普段何をしても大概大丈夫なだけに、こいつはこうなってしまうと、一週間でも一ヶ月でも、気が済むまで平気で不貞腐れていられる。まあ、今回は、家出じゃないから幾分マシだが。
このまま行けば間違いなく今日は同じベッドに入れて貰えないし、夕飯も「なくても死なない」と言われて作らないのだろう。

「なまえ、悪かったからそろそろ機嫌直せ」
「……」

返事がない。今日のところは放っておいても良いのかもしれない。けれど、俺の勘が、ここで放っておいたら家出ルートだと告げている。一度は許したもののリヒトの追い討ちのせいですっかり拗ねている。「気になるから聞いててもいい?」と言われ、いいと言ったのは確かに俺だ。言い逃れできない。

「おい、聞け、ちょっと頭だけでいいから出せ」
「……嫌だ」
「よし、ようやく喋ったな」

布団越しに頭を撫でるとなにか硬いものに触れる。ああ。髪を縛ってそのまま潜り込んでいるのか。大事に大事に撫で回していると、なまえも下らない事で拗ねている自覚はあるのだろう、ずるずると布団から出てきてため息を吐いた。
めちゃくちゃに笑ったが、バカにした訳では無い。むしろ、やはりこいつは最高だと思ったくらいで。……なのだが、上手く伝わらないものだ。
俺は乱れた髪を手櫛で直して、髪も縛り直してやる。同じ髪型だ。

「同じですね」
「お前はなんでも似合うな」
「……ありがとうございます。でも、ジョーカーには負けます……」
「おっ、そうかい?」

そうです、となまえは言いながらため息を吐いた。
やった事はあまりに可愛らしかった訳だが、動機は不安や焦りからだと理解している。起こって欲しくない現実を、寝ている間に映像で見せられて錯乱した。……、他の人間を抱きしめて告白するシーン、なんて、俺だって見たくはない。

「来い」

甘く誘ってやるとやや躊躇いながら、俺の頬に指を添わせた。きら、と地下でも関係なく光るこの目を見てしまうと、俺は他のことは何もかもどうでもよくなりそうになることを、こいつは理解しているだろうか。なまえの迷いは俺が引き寄せて燃やしてしまった。
抱き締めれば、大人しく胸のあたりに擦り寄って来て「ごめんなさい、大丈夫です」と言う。声は、どう聞いたってしょげている。
もう、怒っているのか不安がっているのか、どう振る舞えばいいやら、自分でも分からないに違いない。

「好きだ」
「ん」
「好きだぜ」
「んん」

「知ってます、」と言いながら、俺の熱が伝わったのか、ぐりぐりと額を擦り付ける力が強くなる。顔を見てやりたくて無理やり引き剥がすと「あっ」と言いながらなまえは俺の意図を察して両手で顔を隠した。まあ、想定の範囲内だ。
ちゅ、と手のひら越しにキスをしてやると、びくりと震えた。

「直接、してえんだが?」

様々な感情を表情を見せるようになったなまえは、最近、と言うか、恋人がどうのと言い始めたあたりから、こういう目を、時々する。顔から手を退けて、下から覗き込むように俺を見上げる、俺が愛してやまない瞳に、女としてのこいつの熱が込められていて堪らない。燻っているそれはなまえの手には余るようだけれど、必死に俺にも伝播させようと拙い口付けを寄越してきた。俺も布団の中に潜り込んで、予告通りに露になった唇に噛み付く。

「ん、ぅ、」

このまま全部を俺のものにしてしまいたいのだけれど、口を離したなまえが満足そうにへらりと笑うのを見てしまったから止めるしかない。
ギリギリで、でも一線は越えないなまえの振る舞いを見ると、俺はがっかりしているようで、その実、やや安堵もしている。理由は不明だが。確かにそうだ。

「でも、爆笑することは無いと思うんですよ」
「悪かったっての」

リヒトくんにも文句言わなきゃ、と言うなまえを抱きしめて、少し眠った。
この何日か後、俺も、オールバックでスーツの男になまえが本気で告白する夢を見てしまって、酷くうろたえることになるのは、また別の話だ。


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20200113:また別の話だ。

 

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