絵画のようだった君へ、前/紅丸


最近なまえが、縁側で本を読んでいる姿を見かけない。代わりに、不満そうにちらりと縁側を見やる紅を見ることができる。
二人はおおよそみんなが期待する通りに付き合い始めたようで、まあそこから先のことは当人たちがどうにでもしていくのだろうが、どうにもなまえは紅のあまりのベッタリ振りに驚いている様子であった。
時々隠れて長く息を吐いている時があり、そういう時に目が合うと、何か言いたげに口を開くのだけれど、直ぐにぎゅ、と閉じてしまう。
相談事があれば言ってくれて構わないのだが、もしかしたら、味方にはなってくれないと思われているのかもしれない。
それはともかく、今日もなまえは自室に篭っているらしく、紅は今にも舌打ちしそうな顔で誰もいない縁側を睨み付けている。その後に少々気落ちした様子でぽろりと呟く。

「無理矢理すぎたか……?」

……悲痛な独り言に目頭が熱くなる。それはなんのことを言っているのかわからないが、様子を見ている限りでは告白したのは紅からだ。となれば、無理矢理だったかもと危惧しているのはそもそもその告白のことか、あるいは、その後のすきんしっぷのことか……。

「ま、まあ、なまえも若が嫌いってわけじゃないだろう」
「……」

縁側で本を読むのをやめたのは、若が、音もなく隣に座り、顔を眺めていることがあるとわかったからだろう。なまえの集中力が途切れるタイミングを見計らって髪に触れていることもある。それは、まあ、正直なまえでなくとも困るだろう。とは言え、紅にとって本を読んでいるなまえを眺めるのはほぼ日課のようなものだったので、そりゃあ、まあ、寂しい気持ちもわかる。

「部屋に、行ってみたらどうです?」
「……ここで部屋にまで押しかけたら、あいつの気の休まる場所がねェだろ」
「それも……、そうか……」

とまあ、なまえと紅のことが心配ではあるが、なまえの一番の味方はそもそも紅であるべきだし、実際そうなのだ。
なまえが、遠慮せずに紅に直接相談しさえすれば、なまえに良く思われたい一心の紅は彼女の気持ちを無碍にすることは絶対に無いはずだ。……紅も言葉が足らねえんだろうが。

「ま、お前らはちゃんと話さえできりゃ大丈夫だろ」
「……」
「銭湯にでも行ってきたらどうだ。多少サッパリするんじゃねェか?」

紅は一秒ほど俺と目を合わせて、そのあとがりがりと頭をかいた。「そうだな」とふらりと詰所を出ていった。
俺はその後、夕飯の支度をする為に出てきたなまえを捕まえて「今日の夜、若から話があるようだから部屋に行ってやってくれ」と声をかけた。なまえはまた何か言いた気に口をぱかりと開いた後、引き結んで、いつも通りに頷いた。

「余計な世話かもしれねェが、言いたいことがあれば言ってもいいんだからな?」

はい、ありがとうございます、と。何か考えていることはありそうなのだが、こうやって、変わらないで笑えてしまうところとか、そういうのが、逆に心配なのだろう。他の奴らは気のせいだったかもしれない、で済んでも、俺達にはわかってしまう。紅は、いいや俺達は、もうずっと前からなまえのことが大切なのである。


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20191019:第七ァァ…

 

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