vsカリム編01


第一特殊消防隊に所属していたなまえを、「第八特殊消防隊に来てくれないか」と、誘ったのは俺だった。大隊長には「美人の知り合いが多いなあ」とからかわれたが。実際なまえは大きな戦力になる。俺とは違って容量もいい。ただ、時々手を抜きすぎている時があるが、そういう時は俺がフォローしたら良いし、俺がやりすぎている時はなまえがやめろと容赦なく止めてくれる。だから、二人揃っていればある程度好きなようにやれると思っているのだが。しかし。

「げっ、火縄か。おはよう」
「……おはよう」

なまえが、明らかに俺との遭遇を嫌がっている。前までここまで露骨ではなかったはずだが、同じ所属になってからは日に日に苦手意識を向けられている気がする。……とは言え、こと出動となればそんな気配は微塵も見せず誰にでもどうにでも合わせるのだから実際容量はいい。
だから、まあ、問題がないとも言えるのだが。
じ、となまえを見ていると居心地が悪そうにしながら歩き出した。俺も隣に並ぶ。

「……」
「……」
「……今日のご飯当番誰だっけ」
「アーサーだ」
「ああ。アーサー。意外と器用に色々作るよね。楽しみだ」

そして俺は、そういうことを言われると、負けられない、と思ってしまう。上機嫌ににひひと笑っている姿を見て、焦る様な、焼けるようなこの気持ちはなんだろうか。昔からなまえに対してだけあるこれについて、イマイチよくわからないまま今日まで至っている。
離れている間はそう頻繁に沸き上がる気持ちでも無かったのだが、同じ消防教会で寝起きするようになってからはほぼ毎日だ。
なまえを見ていると落ち着かない。見かけると、声をかけて、なにか、なんでもいいからなにかしてやりたくなってしまう。

「ところで、次の俺の当番の日だが」
「だから面倒臭いからやめろっての。私以外に聞きなさい私以外に」
「お前はまたそうやって何でも面倒がって」
「親か!? 何でもは面倒がってない。無駄な事しか面倒がってない」

料理一つ取ってみても、如何に手数を減らして納得のいくものを作るか、と言うのが彼女の努力の方針で、どう工夫を凝らすかと考える俺とはやはり方向性が違う。

「……、し、こっち来てからは特に対人関係については気をつけてる」
「対人関係? またどこかで喧嘩でもしてきたのか?」
「してない……、ただちょっと、思ったより遺恨が残ったというか、どれだけ言い聞かせててもやっぱ請け負うんじゃなかったっていうか……」
「? 何の話だ。大きな問題になりそうなら大隊長に、」

なまえがふらりと窓に寄ると、

「なまえさん!」

なまえを呼ぶ声がして、なまえはすい、と手を振っていた。気安い様子だ。俺よりも距離が近いのかも知れない。
俺も窓に寄ると声の主は簡単に見つかった。なまえの好きそうな青色の髪と、白のローブ。

「……カリム中隊長か。一体なんの用で」
「いやちょっとデートの約束を」
「……は?」
「話があるんだってさ。内容は、まあ、大体わかってるんだけど。そんなわけだからちょっと空けるよ」

なまえは元々、第一の隊員だった。タマキや、当然彼よりも長くあの隊に居た。仲のいい人間がいるのは当然ではあるのだが、なまえと、カリム中隊長の間に流れる空気は、なにやら、ただの先輩後輩という風ではない。
なまえがぼやいた、対人関係、遺恨を残す、などの言葉が引っかかる。間違いなく二人の間に何かがあったのだろうが、俺には知りようがないことだ。
……もし、男女の話になるのなら尚更。
歩き始めたなまえの背中に、どうにかこうにか声をかける。

「失礼の、ないようにな」
「親か」

刺すような痛みが、胸から全身へ広がった。
いつまで見送っていても、こちらを一度も振り返らないから、余計、に。


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20200108:(なまえと、最後にそうして外を歩いたのはいつだったか、と、つい、考える)

 

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