「寒いね」/リヒト


なまえは、暑いぶんにはどれだけ暑くてもけろりとしているが、寒いのは苦手らしい。

「死ねばいい」
「また物騒なこと言って……」
「この寒さはおかしい」

冬になると外出することが極端に減る彼女も、全く外に出ない訳には行かない。買い物に行ったり、仕事に行ったりが苦行すぎると毎日のように嘆いている。

「リヒト、寒い」
「うん。寒いね」
「なにかいい策ない?」
「いや。策って言っても……、ああ、それじゃあ僕側の手の手袋の取って」
「? ん」

寒いし無理だし帰りたいと言うくせに、僕の言うことを簡単に聞いて片方の手袋を外した。こういう所が素直でかわいくて、僕もなまえ側の手袋を外してなまえの手を掴んだ。僕も大概だけれど、なまえの方が手が冷たい。

「はい。これでどう?」
「……」

掴んだ手を恋人繋ぎにしてなまえを引き寄せたら、ポケットの中に突っ込んでみる。なまえはしばらく固まっていたけれど、そのうちピタリとくっついて言う。

「ありがとう、マシになった」

はあ、と安心したように吐き出された白い息が、なまえのよく手入れされた唇を彩る。帰ったら、もっとあたたかくしてあげようか。そんなセリフを言ってみたい気がしたけれど、やめておいた。

「リヒト」
「どうしたの、なまえ」
「リヒトって結構かわいいよね」
「ええ……? なんなの突然……」

なんにも。そう笑う彼女をみていると、僕が僕ですらなかった時。はるか昔の事を思い出せそうだったけど、結局、何も思い出すことは無かった。


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20200105:なんでもない言葉シリーズと名付けた

 

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