世界で一番楽しい確信/ジョーカー、リヒト


「海に行きたい」となまえが言って、ジョーカーが「行くか」と立ち上がった。「リヒトくんも行こう。あれやりに」と言われしばらくなんのことか考えるが、今日が大晦日だったことを思い出して「ああ」と手を打った。
ジョーカーは首を傾げていたが、僕らはすぐに用意をして、じゃあ行こうと、意気揚々とバイクを引っ張って来た。今、いつもの足はメンテ中だ。防寒だけしっかりしたら、三人で地下の道ではない道を走る。

「バイクって、三人乗りいいんだっけ?」
「駄目に決まってんだろ」
「ちょっと! ジョーカー! 安全運転! どう考えても僕となまえの位置逆じゃない!?」
「なんで俺がお前を抱えて走らなきゃいけねえんだ。しかもお前が前に来たらなんにも見えねえだろ」
「……、でも、ジョーカー、なまえが後ろだったら……」
「……あ」
「ね?」

なまえを大事に抱えるジョーカーだが、後ろにした時しがみつかれることを思い出したのかしばらく固まる。のだが、僕がそう提案したのが許せないのか自分のことは棚上げで僕に言う。

「オイ、なまえでいかがわしい想像すんじゃねェよ」
「してないよね!?」
「しただろ! なまえのあるのかないのかわからねえ乳がひっつくとかひっつかねえとか」
「え……、ない?」
「こいつがそう言ってるだけだ。気にすんな」
「言ってないよね!? 確かに大きくはないけど」
「なまえをなんて目で見てんだ振り落とすぞ。なまえの何を知ってんだお前は」
「お兄ちゃん最近下着買いに行くのついてきてくれたからサイズ知ってますよ」
「ああああ!! ちょっと!!! 怒られるから内緒にしてって言ったのに!!!」
「あとで殴る」
「君に殴られたら僕死んじゃうんだけど」
「リヒトくんは結構センスいいですよね。なんでもできてすごいなあ」
「なまえは今なにを考えて喋ってるの? もしかして僕、なんかした?」
「海まだです?」
「あれ? 聞いてる?」
「海はもうすぐだ。あとこいつと買いに行ったっつー下着は後で確認させろよ」
「……えっ、なんでリヒトくんと下着買いに行ったの知ってるんです? リヒトくん、内緒にしてって言ってたのに話しちゃったんですか?」
「ああ……、そっか……、海が楽しみで適当に喋ってたんだね……?」
「え? もしかして、私が?」
「うん……」
「も、もしかして、リヒトくんとこっそりカラオケ行ったのも……?」
「あ?」
「……今ね、今、バラしちゃったね」
「誘えよ、俺を。なに二人で行ってんだ」

ごめんなさい、となまえは言った。いや、べつにいいよ、と僕は返した。しかし、ジョーカーからは静かな念が飛んできている……。できれば仲良く年を越したいけれど、きっとそれは、なまえの身の振り方にかかっている。



海に到着すると、なまえが僕があげたカメラを取り出す。

「見て下さいこれ」
「なんだそりゃ」
「リヒトくんに改造してもらって、自撮り棒を付けて貰いました」
「動かしてみた?」
「うん。ばっちりでした」
「じゃあ大丈夫だね」
「今度は何悪だくみしてんだ?」
「今、巷の若者の間で年が変わる瞬間は地球に居ないのが流行ってるらしいですよ」
「……あ?」
「抱えてジャンプしてくれない?」
「そこを、写真撮るから」
「……」

ジョーカーは煙草をふかしながら確認する。

「俺に、リヒトと、なまえを抱えて、跳べってか?」

僕たちは一緒に時計を覗き込んだ。

「リヒトくんあと何分?」
「あと三十秒だよ」
「急だなオイ」

この計画にはジョーカーの協力が不可欠だ。
僕となまえはぱっとジョーカーを振り返る。

「駄目?」
「いや、お前にわざわざ上目遣いされてもな」
「……駄目?」
「しょうがねえ。こっち来い。リヒトは適当に掴まれ」

なまえにかかればこんなものだろう。
僕らははしゃぎながらジョーカーに掴まった。
「いいか?」「お願いします」「ちゃんと掴まってろよ?」「オーケー」ど、とジョーカーが強く地面を蹴ると、一瞬で東京皇国が足元に広がる。予想よりずっと高い。というか、僕これ手を離したら死ぬんじゃないか?

「こんな全力で飛ぶことないのに!」
「あはははは! すごい! 地球に! いない!」
「いつになく楽しそうだな」

なまえがジョーカーごと僕にも抱き付いて叫ぶ。

「もういいかな!? あけましておめでとうございます! ジョーカーもリヒトくんも! 今年もよろしくお願いします!」

かしゃ、とシャッターが切られた。
後から写真を見たんだけれど、三人とも、糸が切れた大学生みたいに笑っていた。


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20191231-20200101:あけおめことよろ!

 

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