012/リヒト


あくびを噛み殺しているところなんてはじめて見たかもしれなくて「大丈夫?」と聞いてみた。地下へ行くための準備を終えて、マッチボックスの影で話をする。なまえはぎくりとしてから力が抜けたように笑った。

「大丈夫ですよ、動くのには何も問題ありませんから。……ただ、」
「ただ?」
「……」

ちょい、と手招きされて顔を寄せる。こそり、と耳元でなまえが僕に聞く。「私の格好、おかしくないですか?」あれ。耳打ちされるようなことだろうか。一瞬そう思うが、なまえの顔がやや赤い。昨日はジョーカーと会っていたはず。眠そうな彼女と、怠そうな体……。まさか。いや、有り得る。そうだと仮定するのならばこの反応は適切だ。僕の視点から見て、首とかに痕がついているのが見えないか? という質問だこれは。

「大丈夫。上手く隠れてるし、似合ってるよ」
「本当ですか。よかった……。ごめんなさい、それだけが若干心配で……」
「緊張は? してない?」
「えっ、リヒトくんは緊張してるんです?」
「ちょっとね」

なまえはじっと僕の目を見上げていた。きら、と瞳が太陽の光を反射している。心の奥まで伺うような目だ。僕を安心させるためだろうか、にこり、と笑う。強い笑顔だ。

「リヒトくんのことは絶対守りますよ。用心棒ですからね」
「はは、頼もしいな。でも無理はしないでね。何かあったら僕がなんて言われるか」

なまえは笑顔のまましばらく黙って「……善処します」と言葉を選んだ。本当に万が一があれば、ジョーカーはとんでもなく荒れるし乱れるだろう。それでも、足をとめないだろうから、なまえもこんなふうに笑っている。
しかし、作戦決行前日に抱き潰すのは感心しない。次会ったら文句言ってやる。

「よう、二人とも珍しい格好だな」

ふらりとやってきたヴァルカンがそんなことを言った。

「「インナーにちゃんと白衣着てるんで」」

本当に、いっそ兄妹になってしまおうかな。きっとこれはなまえが合わせてくれたのだ。なまえに向かってにやりと笑うと、なまえはにっ、とイタズラが成功した子供のような笑顔で返してくれた。
澄んだ瞳が、今日も眩しい。


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20191228:ねざーへんだ。

 

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