Xmas・後/リヒト、ジョーカー


大抵の場合楽しそうで嬉しそうで、こんな時くらい泣くのかと思えば、泣いているところなんて見たことがない。
酒を飲ませてみても、普段抱えている弱音や不満を吐き出すことはなく、蕩けた笑顔でへらりと笑っているだけだった。俺たちはその様子を眺めて癒されていたのだが、ふと、なまえがこちらをじっと見たから両手を広げてみた。

「ほら来い」

呼んでみると、ふわりと腕の中に飛び込んできて「えへへ」などと笑いながらぎゅ、と柔らかく俺の身体に抱きついた。
よくある事だが、今日のはなんだかいつもと違う。酒が入っているからか、普段よりふやけているからか、とんでもないアニマルセラピーを受けているような。宇宙が見えそうな……。
ぎゅ、と、抱きしめ返すと、やや力を増してくる。なるほど気づいたことがある。ここからまた不眠不休でうごくことができるような気がすると共に、なるほど、俺は疲れていたらしい。これが癒し。これがなまえの真の力か。

「なまえがこうなるって知ってたの?」
「いや。本当に初めて飲ませた。まあ強くはないと思っちゃいたが」
「ふふ、ジョーカー」

すり、と首に擦り寄られたから頭を撫でてやる。「ジョーカー」と俺を呼ぶ声にまでアルコールが回ってふわふわしている。

「なまえ、僕の方にも来ない?」
「オイ、何言ってんだ」
「ほら、お兄ちゃんだよ」

やらねえよ。と迫るリヒトから守るように体を回すが、なまえはぱち、とリヒトと目を合わせると俺の腕から這い出て、きゅう、とリヒトにも抱きついた。……酒を飲ませるといい感じにでき上がるが、俺の前以外では飲まないように誓わせよう。

「……」
「おう、どうだ? お兄ちゃん」
「これは……、やばいね……」
「だろ」
「僕達、疲れてたんだね……」
「だな」

リヒトもなまえの頭を撫でている。「りひとくん、」となまえの声が甘味の様に体に染みる。そのリヒトくんはと言えば「うーん」とか「あー」とか言いながら浸っている。「おい、そろそろレンタル料取るぞ」レンタル料取ったって貸したくなんてないのに。

「ねえジョーカー」
「やらねえぞ」
「なまえ、僕にくれない?」
「やらねェ!!」

なんでやつだ。こいつも同じく疲れているだろうと貸してやったのに。取られてたまるか。「なまえ、ほら、ダーリンのところに戻ってこい」「よしよし、なまえ。今日はありがとうね」「ん、」なまえはおとなしくリヒトに撫でられている。

「なまえ? 寝るならベッド行かなきゃ」
「お前は何を言ってんだそれは未来永劫俺の役目だ」
「でも僕から離れないし」
「なまえ。帰ってこい」

なまえから返事はない。「あ?」覗き込むと、リヒトの肩に沈んで眠っていた。ケーキまでたどり着かなかったが良かったのだろうか。いや、まあ、クリスマス会がしたかったわけではないだろうから、いいのだろう。

「寝るか」
「そうだね。後のことはまた明日」
「ああ、じゃ、そいつ返せ」
「いやあ、無理やり剥がしたら可哀想じゃない? 三人で寝たらいいじゃん」
「何も良くねえ」
「こんなかわいい生き物独り占めしようなんてバチが当たるよ?」
「当たらねえ。こいつだって俺みたいなイケメン独り占めしてんだから一緒だろうが」
「優秀なお兄ちゃんもいるしね」
「お前最近、兄貴っつー立ち位置使って近寄りすぎじゃねェか?」
「そんなことないと思うけどなあ……」
「あるだろ。早く返せ」
「うわっ、ちょっと揺らさないでよ。なまえが起きちゃったらどうす、あ」
「あ?」

リヒトを揺さぶるために体を掴んでいた手を、なまえに掴まれた。きゅ、と指を一本。……。
俺は頭を抱えて長く息を吐き出す。はーーーーー……。

「三人で寝るぞ」
「そうこなくっちゃ」
「変なところ触んなよ。乳とかケツとか」
「それジョーカーでしょ……」

ふふ、となまえが楽しそうに笑った気がした。俺はまだ、こいつが泣いているところを見たことがない。出会った時も、俺と来ると決めた時も、俺と少し離れていた時も、俺に酷く傷つけられた時でさえも、泣いたことは無い。
願わくば、これから先も悲しみで泣くことがないように、俺が守ってやれればと、幸せそうななまえを撫でてやった。


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20191224:メリクリ!!!

 

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