Xmas・中/リヒト、ジョーカー


良いことが起きた。
秘密基地は空気が張りつめていて、私が居ては邪魔かと外に飛び出し、すぐのことだ。
電車に乗って遠出でもしようかと駅のホームでぼうっとしていると、なんだか足取りの危ない母子を見つけた。子供はまだ赤ちゃんだ。お母さんがふらふらとしているので嫌な予感がして立ち上がると、案の定、ふらりとよろけて線路に落ちそうになっていた。

「……大丈夫ですか?」

咄嗟に支えて改めて顔を見る。若いお母さんだ。私とあまり歳が変わらないかもしれない。ジョーカーよりは下だけど、私よりは上だろうか。体調が悪そうだったので座ってもらって飲み物を買ってきて一通り話を聞いた。家の事や子供のこと、旦那さんのことなどなど、いろいろあるんだなあと聞いていると、「抱いてみる?」と聞かれた。「えっ」

「将来、貴方みたいな強くて優しい子に育って欲しいわ」

強くも優しくもない、と思ったが、そう見えたならこの人の前ではそうあろうと頷いた。家まで送ろうかと提案したけれど、話しているうちに気分が良くなったからと、福引券を一枚渡された。



せっかく貰ったからと私はふらりと券に書かれた商店街へ行くと、いつもより賑わっていた。一度福引をさせて貰うと、よく分からないが限定品のプラモデル? 機械のパーツ? が当たった。どうしようかと手の中でくるくる回しながら歩いていると。

「あっ!?」
「ん?」

早口過ぎてよく聞き取れなかったが、相当なレア物だったらしい。私は持ち帰ってもしょうがないしと差し出すと、かわりに「これは自分で引く予定だったけどもういらないから」とまた福引券を十枚貰った。
また行くのか? と思ったが、腐らせるのもな、と素直に戻った。道中、子供の泣き叫ぶ声が聞こえてきてそちらを向く。
嗚咽混じりだし、兄妹で揃って叫んでいるから聞き取りにくいが、お父さん、くじ、おもちゃ等々のキーワードが聞こえてきて私は丁度いいと五枚ずつ差し出した。

「え、い、いいのかい?」
「いいんです。よかったら貰ってくれると私も嬉しくて」

目当てのおもちゃが当たるとは限らないけれど。そう言って笑うと、子供たちは嬉嬉としてくじをまわし、それぞれ中々いいものを貰っていた。玩具と、高級霜降り肉1キロ、商品券一万円、スキヤキ鍋とカセットコンロのセットだ。
当たった品物はお父さんが一時預かり……。

「お姉ちゃん、家族は?」
「家族……? そんなようなものなら、多分二人……」
「ならこれは持って帰ってスキヤキでもやってくれ」

クリスマスだしな。と言われて。ああそうか、と私は手を打った。……となると、あの二人はクリスマスだと言うのに寝ずの作業をしているわけだ。突然スキヤキをやり出したら怒るだろうか。いや、怒られはしないだろうけど、反応が予測できない。

「ありがとうございます」

それでもまあ受け取っておくかと受け取った所で、また子供の悲鳴が聞こえた。何事かと顔を上げると、刃物を持った男が走り込んでくる。強盗? 通り魔? わからないが、進行方向にはさっきの兄妹がいる。
私は咄嗟に貰ったものを目の前の人に押し付けて姿勢を低くして迎撃する。呆気ないことに蹴り一発で動けなくなっていた。あ。あんまり目立つのはまずい。
私は反応が帰ってくるより先にフードをがさりと被って商店街を離れた。



商店街は騒然としたが、直ぐに事態は収拾した。追手に警戒しながらまた駅へふらりと歩いていく。図書館にでも寄ってから帰ろうとまたぼうっとしていると。

「あっ!!!!?!」
「あーっ!!!!!」
「ん?」

「お父さーーーん!! こっちいたよーー!!」いた? 私か? あ、いや、よくよく見たらさっきの兄妹だ。
あれよあれよという間に手を握られ三人と握手をし、肉とスキヤキ鍋セット、それから必要だろうと大量の野菜。調味料。ホールケーキを渡された。ふ、増えてる。

「これは、ええと」
「ケーキは家の店のだから気にすんな! 適当に焼き菓子も詰めといたぜ。あと、一家に伝わる秘伝のスキヤキレシピも入ってるから参考にしてくれ!」

この強引さ覚えがあるような……。記憶をさぐっていると思い出す前に足に兄妹が体当たりをして来て視線を下げる。きらきらとした目がまぶしい。

「お姉ちゃん、ヒーローみたいだったよ」

ヒーロー。

「……あ、ありがとう」



「だいたいそんな感じでした」
「じゃあ、一銭も使ってないんだ」
「すげえな」
「クリスマスプレゼントですね、ジョーカーもリヒトくんも頑張ってたから」

リヒトくんとジョーカーは鍋をつつきながら私の頭を撫で回した。「わ、な、なんですか今日は」スキヤキの野菜を切っている時とか、鍋を見ている時とか、今日の二人はいつにも増して私の頭を撫で回しにくる。嫌ではないけど、そんなにされては少し気恥しい。

「いつもこんなもんだろ、なあ」
「うん、いつもこんなもんだよ」
「そうかな……」

じ、と二人を見上げるが、明るく振舞ってはいるものの、目の下の隈や、やや顔色が悪いのが気になる。元気づけようと持ちうる全てのテンションで秘密基地に帰ってきた訳だけど、本当のところ本当にこれで良かったのかは私には分からない。

「今更なんですけど、本当に大丈夫だったんです? 別に今日無理やりしなくても」
「あ? お前、リヒトがこんなに楽しそうにしてんのがわからねえのか?」
「そうそう。ジョーカーも朝とは比べ物にならないくらい上機嫌なんだよ?」

それはわかるが。
しかし。でも。

「ほら、なまえ。卵割ってあげようか」
「おい、あんまり暗い顔してると肉口移しで食わせるぞ」
「ええ……」

さすがに、私がジョーカーが好きだと言ったって肉を…口移しで貰いたくはない…。し、新しい卵は割ってもらわなくてもいい…。
……気を使うなと言われているのだろうけど、なんだか伝え方が変だ。もっと普通というものがありそうだけれど、……ふふ。

「……うん、無理してないならいいんです」

気を取り直してテーブルに向かう。テーブルにはジョーカーが買ってきたお酒とチキンまで並べられていてかなり豪勢な感じだ。私は多分あまり食べられないけど、なんとかケーキまで行きたい気持ちはある。

「なまえ、葱好きでしょ、はいどうぞ」
「お前まだまだ肉が足らねえからな。肉もいっとけ」

ケーキまでいけないかもしれない。左右から私の器にいろいろ投入してくる、この二人は私をなんだと思っているのか。とは言え、二人とも本当に、言葉通りに楽しそうたがら、文句は飲み込んで「ありがとうございます」と言っておく。

「そろそろ酒空けるか」
「なまえは飲んだことある? アルコール」
「実はないんです、ジョーカーがお前はダメだって言うから」
「今日はいいの?」
「今日飲まなきゃいつ飲むんだよ」
「わあい、どれなら私も飲めますか?」
「お前はカルアミルクとか好きだと思うぜ」
「ってなに? ミルク?」
「ああ、そうだね。甘いお酒だよ。コーヒー牛乳みたいなやつ」
「へえ……」

じゃあそれ。
と、言うとジョーカーとリヒトくんが言い争いながら作ってくれて、皆で乾杯したわけだけれど。一口飲むとなるほど甘くて美味しくて、しかし、それからしばらく後の記憶がない……。
起きると、三人で川の字で寝ていた……。
アルコール、コワイ……。


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20191223:すき焼き食いたい。

 

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