ベストフレンド*/シンラ


気付いたのは最近だ。

「ごめん」

森羅日下部との付き合いは、彼がまだ発火能力を発現させるより前に遡る。奇しくも同じ時期に発火能力に目覚めた私はシンラと一緒に灰島の能力開発研究の施設に居て、自然な流れで同じ訓練校に入学した。
学校でもお互い良き友人関係を築けていた、と、私は思っていたのだけれど。

「気にすんなって、親友だろ」

ちら、とシンラの周りを見ると、余程暇なのか私に絡んで来た男子生徒が数人転がっていた。「悪魔といつも一緒に居る女」に不用意に近寄るとこうなると、知らなかったのだろうか。……私がやったわけではない。シンラは私にすい、と手を伸ばして言った。

「いつまでもこんなところにいてもしょうがない。行こうぜ」

シンラには、オグンやアーサーと言った友達も最近はいるのだけれど、私への態度はずっと変わらない。彼の中で私という人間は親友、と言う立ち位置にいるようだが、距離感が子供の頃のまま、いいや、事態はもっと深刻で、子供の頃より近くなっている。異性の友人の距離ではない。
繋いだ手は離れないように強く握られているし、引いて連れていかれたのは人通りのほとんどない空き教室の中。

「怪我は、どこにもないよな?」

するすると体に触れられて確認される。

「ないよ」
「ならよかった。触られてもないか?」
「呼び止められた時に、肩叩かれたくらい」
「あいつら……!」

シンラは血相を変えて恨みがましく言うけれど、全然大したことじゃない。それよりも、シンラが私に何の許可も得ず、さも当然のようにシャツのボタンをはずして、直で私の肩のあたりを確認していることのほうがずっとまずい。

「あいつら、なまえにッ、綺麗ななまえに触れやがって……。もっと全力で蹴っておくんだった……!」
「ううん。大丈夫だよ」
「大丈夫なわけあるか! お前は優しすぎるんだよ」
「大丈夫。いいから」
「けどなあ!」
「いいの」
「ッ……、まあ、お前がそこまで言うなら、いい、けど」
「うん」

けど、とシンラは繰り返す。
癖になってしまった歪な笑顔に影を落として言う。

「次は絶対許さねえ。ぶっ殺してやる」

ぎゅ、と体を抱きしめられて、大事そうに見下ろされた。
異性の友人の、距離ではない。
幼馴染の距離でも、親友だと言ってもこれはおかしい。
思い出すのは「友達だから」と言い合ってきた幼少時代。いつから明確におかしくなったのかわからないが、ひょっとして、私が灰島に居た時に黒い男の人と喋った時からだろうか。「あいつ、なまえをなんて目で見るんだ」ととても怒っていたのを覚えている。
そこから、おかしくなってしまったのだろうか。本当はずっとおかしかったのだろうか。

「なまえ、危なくなったらすぐ俺を呼べよ」

ヒーローだからな、と彼はよく言っていた。その言葉を、私に使わなくなったのはいつからだったか。
引き寄せられて、触れるだけのキスをされる。
好きだと言い合った覚えはない。
手を繋いで抱きしめて、キスをするのは、親友の距離じゃない。

「俺達、親友だもんな」

唇から流し込まれているのは、狂気。


----------------
20191221:シンラくんはこう、自分にも相手にも呪いかけながら囲い込みそうだなってね

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -