Xmas・前/リヒト、ジョーカー


何もかもが上手くいく訳では無い。無法者としての生き方も板についてきた気はしているけれど、それでも未だに世界は謎に包まれているし、わからないことは多いのだ。

「そっちはどうだった?」
「ハズレだ。かすりもしなかった」
「そう。ならまたゼロからだね」

ぐ、と重たい沈黙が流れて、秘密基地はどんよりと暗くなる。こういう話は極力なまえのいない所でと言うのは僕とジョーカーの共通見解だ。どうしてもって時は同行してもらったり忍び込んでもらったりということもあったけれど、危なげなくこなしてくれるのだけれど、どうにも僕達はなまえが体を張る姿を見たくなくて滅多に手伝わせなくなった。話を聞かせることすら稀だ。
なまえは「なにか、間違えましたか」と寂しそうにしたこともあったけれどジョーカーが宥めて「お前は俺たちの秘密兵器だ」などと思ってもいないことを口にした。「切り札は最後の最後まで切らないもんだぜ」と。なまえもそれが嘘だとわかっただろうが、「ん」と小さく頷いて、それ以来不満は聞かない。
好きなように出歩いて、好きなように振舞っている。
時々どうしても寂しい時はあるようで、そんな時は力づくで離せない僕の方にくっついて話を聞いている。「オイ、締め出したりしねえからこっち来い」とジョーカーは言うが、と言って抱えた後「一時間どっかで遊んで来い」と放り出したことがあるせいで信用されていない。その時は、ジョーカーがどうしてもなまえに聞かれたくない話をしたいからだったのだけれど、なまえはささやかな抵抗で一週間くらい帰って来なかった。
もちろんジョーカーはそれなりに荒れていた。なまえは満足したのか我慢したのか、なにかそれ以上にいいことがあったのかにっこり笑って何故かホールケーキ片手に帰ってきた。「ただいま」といつも通りに笑うなまえに、ジョーカーは一気に安堵して怒るのも忘れて泣きそうになっていた(僕にはそう見えた)。「言ってくれれば外で遊んでますよ」とぽつりと言った時の寂しそうな声は忘れられない。ジョーカーは堪らず「悪かった」となまえを抱き締めていた。以来、どうしても聞かれたくない話の時はなまえにそう言うようになったのだけれど、やっぱり僕の方に寄ってくるから、あの事件は割と根が深い可能性はある。

「いや、まだアテはある。このまま次行くわ」
「少し休んだら? もう何日も寝てないでしょ」
「それを言うならお前もだろ、悠長にして逃げられたら厄介だ」
「けど、焦って気づかれる方が最悪でしょ」
「そんなヘマしねェよ」

お互い疲れがピークに差し掛かっていて、言葉がやや刺々しい。こういう時。こういう時にはなまえがいると、その圧倒的な癒しの波動でマシになるのだけれど。今日は朝から出かけている。「いいことがある気がするなあ」と、夜通し作業をしていた僕らに笑顔で手を振って出て行った。
こんな時だけ頼るのはずるいのだろうか。
はあ。
と二人して息を吐いた時。
ばあん、と基地の扉が開け放たれた。

「ただいま!! 世間はクリスマスですよ!! クリスマス会やりましょう!!!」

ハイテンションが過ぎる。僕もジョーカーもついて行けなくてぽかんとしている。ただ、なまえが勢いよく入ってきたおかげで、どろっとした暗い雰囲気はどこかへ逃げていった。

「……クリスマス会! やりましょうよ!!」

めげずに繰り返す。
僕とジョーカーは、すぐには動けない。もちろん怒っている訳では無い。

「………」

なまえは慌てて僕らの様子を見る。目の下の隈とか、疲れた様子はすぐには隠せず、なまえはみるみるしぼんでいく。
彼女はどこで遊んできたのだろう。
手に無数の紙袋と(ケーキの袋は一目瞭然で、あとは、葱などの食材が入った袋がいくつか)、ツッコミ待ちなのかそこしか置き場が無かったのかカセットコンロとスキヤキ鍋のセットを頭に乗せていた。何故……。

「…………、……、出直してきます」

ふ、と器用に影を背負って笑いながら踵を返した。
僕とジョーカーは目を見合わせてすぐに立ち上がる。
秘密基地から飛び出して、困り果てているなまえを捕まえた。

「わぁ!? あ、あれっ、なんでっ!?」

僕とジョーカーとでなまえの荷物を全部取り上げて、犬猫にするように頭を撫でる。「えっ、え、ど、えっ?」事態が飲み込めないなまえは目を白黒させているけれど僕らの中ではもうやることは決まっている。うん。確かに少し根を詰めすぎた。
疲れた脳では冷静な判断もできないだろう。

「どうしたのこれ。結構いいところのケーキじゃない?」
「こっちは肉か? どこで拾ってきた?」
「……わらしべ長者で、いや、それよりも」

なまえはそうっとこちらを見上げながら言う。三度目だ。

「クリスマス会、します……?」

さすがに勢いが無くなっているが、足らない勢いは僕達で足す。これがチームというものだ。

「宴会なら酒だな」
「他になにか必要なものある?」

なまえは「やった」と満面の笑みで言い、僕らの腕を抱きしめた。「二人とも大好き」例のごとく、ジョーカーは「いっしょくたにすんなよ……」と文句を言った。


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20191220:Xmasだ!!!!ぞ!!!!!

 

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