ハツコイ/52


「やめろ、寄るな」

と、52は私に言った。別に何をした訳では無いと思うのだが(強いていえば傷を治療しようと救急セットを持ってきた)、そこまで言われたらやめてあげて、寄らないでいてあげるのが親切に違いない。
元気そうだし自分で手当くらいできるだろう。

「でも……」
「なんだ」
「離してくれないと、離れられないけど……」
「!!」

私の腕を掴んでいたのは無意識だったらしい52はしかし、私の手を離そうとせずに突っ立っている。今どういう感情でいるのだろうと覗き込むと、ようやく手を離してくれた。

「……手当していい?」

改めて聞くと、52は何も言わずに頷いた。良いらしい。じゃあ、と、適当な岩に座らせて血を拭うのだが、52は落ち着かない様子で私と自分の傷とを見比べている。

「派手にやられたね」
「いつものことだ」
「んん……」
「お前が痛そうにする必要は無いだろ」
「でも、痛そうだし」

少し沁みるよ、と言ってから消毒液をかけるのだけれど、52はやはり、痛そうに顔を歪めていた。私の能力が傷を癒すとかそういう便利能力だったらよかったのだけれど。
包帯を巻き終わるとそっと手を離す。特別な会話があるわけではないが、歳も近いし、なんとなく私も隣に座る。

「……」
「……」

暫くぼうっと変わり映えしない(地下だから本当に変わり映えしない)天井を眺めながら52と一緒に居た。
私はそこで、そう言えば最初にやめろ、寄るなと(本気ではないとわかっているけど)言われたなと思い出し、救急セットを持ち上げて立ち上がった。

「じゃあ、私行くね」
「……」
「怪我しないようにね」

ゆっくり地面から足を離すと、くん、と腕を捕まれ進めなくなった。

「……」
「……、他にもどこか怪我してた?」
「いや」

そういうわけじゃない、と52は言った。この男の子はどうにも、私を扱いかねているようだけれど、嫌われているわけでないのは態度でわかる。言動はやや乱暴だが、それ以外の全てが優しすぎる。私のことが嫌いな人は、傷が痛そうだなあと心を痛める私を見て、体の傷を負うよりも嫌そうにはしないものだ。
52はぽつ、と、かなり小さい声で言う。

「……離れないでくれ」

私は再び隣に座り、天井が変わり映えしない代わりに、私たちが変わってみる。する、と52の手に指を絡めてみた。「!!!!?!」反応を見るため覗き込むと、52は顔を真っ赤にした後走って私の前から居なくなってしまった。……そんなに照れなくても。


-----------
20191215:これは、しょうくんでも書けそうだなと思いながら。

 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -