料理の話/火縄


「何か食いたいものはあるか?」
「……、シンラ、今何食べたい?」
「え、か、からあげですかね」
「からあげかな」
「それはお前の意見ではないだろう」
「からあげかなァ!」
「……」

とまあこの日はからあげが夕飯のテーブルに並んだのだが、次の当番の日も懲りずになまえに食べたいものを聞いていた。火縄はどうにも、どうしてもなまえの望むものを作りたいようなのだが、なまえは面倒くさがってその質問の答えを他の隊員に振り続けている。「今日はどうだ?」「リヒトくん、今日は?」「煮物がいいっすねえ、野菜滅茶苦茶入ってるやつ、あと今日は塩分取りたいかな」「奇遇! 天才! 私もそれ!」「……」火縄の食事当番の日には必ずこのようなやり取りがあった。

「なまえさん……、そろそろ真面目に答えてあげたほうがいいんじゃないですか……?」
「嘘じゃん、私が責められるんだ……」
「確かに、中隊長は過保護ですけど……」
「ええー……?」

マキとシスターに囲まれたなまえは溜息を吐きながら「火縄は愛されてるねえ」と二人を撫でた。カワイイ後輩にこうまで言われてはいくら面倒とは言え相手をしないわけにはいかない。
なまえは意を決してその日、火縄と廊下ですれ違った。

「なまえ」
「はいよ」
「今、食べたいものはなんだ」
「なんでもいいよ。火縄の料理美味しいから」
「……適当にするな。ちゃんと答えろ」

やっぱり駄目か、となまえは真剣に考え始める。今は、どうだろう。ああ、あれがいいかもしれない。

「中華の気分かな」
「範囲が広すぎる」
「回鍋肉とか」
「とかとはなんだ」
「回鍋肉が食べたいです」
「あとは」
「ええ、いや、いいよ、あとは適と、」
「味は濃い方がいいのか?」
「今日はまあ、濃い方が嬉しい」
「それで、他には」
「いやだから、他とかは別に、火縄が作りやすいものを」
「俺の話はしていない」
「……」

なまえはぎり、と胃が痛むのを感じながらつい周囲に誰かいないか確認した。誰もいない。当たり前だ。そういう時と場所を選んだ。誰かいたら面倒のあまり投げてしまうし、投げてしまったら最後、次もこの質問攻めに付き合わなければならい。
思わず面倒くせえな、と呟いてしまいそうになるのをぐっと耐えて、火縄の質問に一つずつ答えてく、なんだこれは面談か? というレベルの質問、肉はどこ産がいいとかキャベツはどう切るとか、具のサイズとかそんなものまで今日の気分を聞かれた。一体なにが面白いのかなまえにはさっぱりわからず、無駄に三十分を浪費してしまった。

「火縄中隊長、今日はなんだか嬉しそうですね」
「ええ、なまえさん、きっとやってくれたんですよ」

やってくれたんですよじゃないあの面倒さかげんをしならいからそんなことが言えるんだ、となまえは回鍋肉を口に運び、じ、と感想を求める視線を投げる火縄に「だから、火縄は、なに作っても美味しいんだって」と言う。満足したような顔(に、なまえには見える)で「そうか」と返って来た。

「だが、事前に準備する時間があればもっといいものができたはずだ。なまえ、次は」
「おい、いい加減にしろ」

付き合いきれない。
なまえの言葉は弾丸のように火縄に打ち込まれる。

「世界一美味いから心配するな」

おおお、とどこからか感心したような声が漏れていた。
はあ、とため息を吐きながらも、なまえはその世界一美味い回鍋肉を口に運ぶのに忙しく、火縄の耳が赤くなるのを見ていなかった。



「そうか」

世界一、と言いながらも不機嫌そうななまえを見る。最上級の褒め言葉なのだが、じっと彼女を見ていると、やはりまだ、もっと、やれるような気がしてしまうのだった。


-------------------
20191211:火縄さんに面倒くさくなってほしいシリーズ。

 

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -