大切なものもう一つ/52vsジョーカー


私は何度か目を擦って目の前の二人を確認した。
あー、うーーーん。
黒い繊細な髪に、瞳は、アメジストよりも深い紫。そんな知り合いは一人しかいないが、目の前には、その特徴を持った男が二人立っていた。そのうち一人は馴染みの人物だが、もう一人は大分幼く、髪も短い。左目も見えているようだ。これは。これは?
いつものジョーカーを指さして聞く。

「ジョーカー?」
「ああ」

ジョーカーの方から返事がある。
ええと。初対面の相手を指で指すのは良くないと手のひらを向けて聞く。

「……ジョーカー?」
「相変わらず勘がいいな……、限りなく正解だが……、まあそいつのことは52とでも呼んでやってくれや」

ふぁいぶつー、くん。私は改めて52くんと目を合わせて、「52くん?」と確認してみる。こちらを警戒しているようだが、無言のままこくりと頷いた。52くんでいいらしい。

「とりあえずあれだね。昨日のカレー三人分温めてくる」

そのへん座ってて、と言うと、ジョーカーはソファに座ったが、52くんはうろうろと居場所を探した後、私の後ろについてきた。……耐えきれなくてそっと頭を撫でると、ジョーカーと同じ顔を赤くして驚いていた。どうする……これはかわいいぞ……。
ソファでこちらを面白くなさそうに見ているジョーカーは見なかったことにした。



原因はわからないが、これは過去の俺だ、とジョーカーは簡潔に言った。へえ、そんなことがあるのかあ、と能天気に返しながら、わざわざ食器を片付けてくれた52くんの頭を撫でる。「飯の礼に」と短く言った52くんあまりにも可愛い。私は一体どうしたら。

「外部からの攻撃って可能性もあったが、今のところはただの昔の俺だ」
「52くん、甘いもの食べる?」
「甘いもの?」
「聞けよ」

「聞いてるよ、ジョーカーは?」と聞くと、「食うよ」と返ってくる。52くんは席を立った私にすかさずついてきてくれて「何かやれることがあるなら手伝わせてくれ」と言う。
自分の胸を押さえるつもりが52くんを抱き締めていた。かわいいが過ぎるのでは……?「!!?」慌てる52くんの後ろ首を「オイ!」とか言いながら飛んできたジョーカーが掴み、べり、と私達は引き裂かれてしまった。

「なにしてんだ」
「ごめんつい色々極まって……、ごめんね……」
「い、いや……」

52くんはジョーカーの手を振り払い、戸惑いながらも今の気持ちを教えてくれた。

「……驚いただけだ」

ええ? いや、これは。
ジョーカーは間に立って「甘やかすなよ」と言う。「絶対に甘やかすな」と、言う。「絶対だ」と。

「いやあ、それは、約束、できなくない?」
「なんでだよ。約束しろ。甘やかさないしみだりに触るな」
「触るなは、そうか、初対面の男の子にベタベタ触るのは良くないか……」
「えっ」
「え?」

ひょこりとジョーカーの後ろから出てきた52くんは私の言葉に寂しそうに一音声を漏らした。えっ。ええ。ええええ。そんな、反応を、されてしまっ、たら。
私はそっと52くんの頬に触れて、またさらさらと頭を撫でた。癖になってきた……、52くんももう驚かないし(最初から嫌そうではなかったが)嫌がらない。

「無理無理、甘やかすし触るよこれは」
「……」
「……」

ジョーカーは不貞腐れたように沈黙して、52くんはやや照れながら沈黙していた。しばらく私は生ぬるい笑顔のまま52くんを撫でていたが、その内甘いものを出すところだったんだと思い出した。

「52くんは苦手な食べ物とかあるの?」
「ない」
「へえ、えらい! なら、夜食べたいものとかはどう?」
「……料理とか食い物とか、詳しくないから俺は力になれない」
「ああ、いやいや、いいのいいの。でもあれだね、まだ十代前半くらいでしょ? ならきっと肉とかそういうのよね」
「……」

ならばどうだろう、とりあえずサラダは作って、このくらいの男の子って何が好きなんだろう? ハンバーグか? ああハンバーグいいかも。よし。久しぶりに煮込みハンバーグなんてものを作ってみたいかも「わあ!?」突然、体が宙に浮いた。「よっ、と」正確にはジョーカーに持ち上げられて、軽く真上に投げられた後、横抱きにされた。アブナイ。

「俺は魚の気分なんだが? ハニー」
「ええ……?」
「さっきからガキの俺を構ってばっかじゃねえか。そいつに聞いたなら俺にも晩飯何がいいか聞けよ」
「魚かあ。魚……。いやまあ、魚でもいいけど。なら…、うーん、ホイル焼きかなあ」

ぎゅうぎゅう身体を締められて苦しい。「わかったわかった」と下ろしてもらうともう一度献立を組み立て直す。あ、豚汁とかにしたら肉も入るか。それでいこう、メインではなくなっちゃうけど。
凍った鮭を冷凍庫から取り出すと、く、と服の端を掴まれて振り返る。52くんだ。

「肉がいい」

これは、あれだ。ハンバーグだやっぱり。せっかくなんの奇跡か会えたんだし。うん。ハンバーグに決定。

「オッケー!」
「オッケーじゃねえよ、俺の意見は全部無視か? ガキばっか贔屓してんじゃねえよ」
「ジョーカーとはまた今度遊んであげるから」
「後回しにされる理由が気に入らねえ!」
「……大人気ねえ、なあ、なまえ。こいつ本当に俺か?」
「あははははは! ジョーカー! 言われてるよ!」
「笑ってんじゃねえよ! で、お前も馴れ馴れしくなまえを呼ぶな!」

とは言っても、あまりにないがしろにすると本格的に拗ねかねないので、結局どっちも作った。それでひとまずは落ち着いたが、どこでどう寝るかでまた喧嘩が始まり、私はジョーカーと52くんに挟まれて眠った。
一晩たってもこの不思議な奇跡は続いたまま。
52くんはやや不安そうにしていたが、それが、戻りたいからなのか、この説明出来ない状況についてなのかはわからなかった。わからないことは、あまり深く考えても仕方がない。

「おはよう。今日は買い物行くから、52くん手伝ってくれる?」
「!」
「おいクソガキ、俺がいない間になまえに手え出したら吊るしあげるからな」

突然起きた奇跡が、また突然世界を均してしまうまで。


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20191209:なんでも許せる方向け

 

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