実にこいつらしい切り込み方だ。隠す理由も意味もねえ。「そんなもんしてねえ」軽くそれだけの答えると、ゲンは大袈裟に体を硬直させてそのまま後ろに倒れた。倒れても安全であることは、恐らく事前に確認している。「嘘」そして何故か、心臓の当たりを押さえて、自分で質問したくせに、俺よりも狼狽えながら起き上がった。
「ウッソでしょ!? ジーマーで!? ってことは、なまえちゃんってば」
処女ってこと? そこは流石メンタリスト様で、最後の部分は音量を抑えて俺に耳打ちしてきた。俺は作業の手を止めることなく答える。
「どうだかな」
「ええー、嘘、ええー……?」
知らない。聞いたことがない。なまえは高校生になってからアルバイトの量を増やしていて、その中に、あやしげなものもあるらしい、という噂は、当時のクラスメイトなら誰もが知っていた。あやしげの部分の詳細は謎だが、夜の仕事には違いない、という話だった。路地のスナックに入っていくのを見た、と言うような目撃情報もある。
「いいのお? それで……」
「……」
「危ねえことしてねえだろうな」そう聞くと、なまえの返事はいつも「大丈夫」であった。なまえが大丈夫だと言うなら、大丈夫だ。そのはずである。
「俺がなまえちゃんに聞いてきちゃってもいい?」
「あー、俺が聞き出すより話しやすいんじゃねえか」
俺には聞かれたくないが、吐き出したいことがあるのなら。そういう感情、言葉を引き出せる男がいるとしたら、それは、こういう男なのかもしれない。
「いいんだね?」
「しつけえよ」
なまえが楽になるのなら、なんだっていい。自分でなくとも構わない。なにもかも自分がやらなければなんて、不合理極まりない。なにもかも自分がやりたいなんて身勝手、言えたもんじゃねえ。
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20210612