素材探しに、日々の移動。舗装された道路はない。歩くだけで、旧世界より体力を持っていかれる。それから、彼の場合は科学実験、常に力仕事という訳では無いが、設備の不充実は、人間が補うしかなくて。
「あ?」
千空は、私を見るなり動きを止めて、かいていた頭から手を離した。「なまえてめー、どこで遊んでやがった?」くつくつと笑って、彼は私の髪に触れた。こんなことは昔もあった。かつて高校生だった私達も、こうして。
「花びらなんて頭につけて、ガキか」
腕が太くなった。私は、千空の言葉を聞き流して、男らしく張った腕や、いっそうゴツゴツした指先を見ていた。「オイ、聞いてっかー」手は、私の目の前で振られた。千空の顔を見上げる。背も伸びた。
「千空は大人になったね」
「あ?」
「筋肉がついて腕も太くなったし、背も伸びた」
だから、大人になったね、だ。私が言うと彼はきょとんと目を丸くして、自分の体を見下ろした。
「自分じゃわからねーけどな。ま、確かにこんな山しかねえ場所に住んでりゃ体力もつくか」
「うん、男の子って感じだ」
「俺は生まれた時から男の子だっての」
「うん」
そうだね。生まれた時はわかりようがないけれど、私と出会った時は男の子だった。機械やロボット、未知のものが大好きな男の子。ああ、そんな時の千空なんて思い出したら、なんだか涙が出てきそうだ。一緒に成長してきたんだなあ。
しみじみそんなことを考えていると、千空はぽつりと呟いた。
「変わらねえな」
「うん?」
「てめーは変わらねえ」
「そうかな。そうでもないと思うけどな」
千空に秘密にしていることもたくさんある。千空ほどではないが体に変化もある。頭に花びらをつけているのは子供っぽいかもしれないけれど、全く同じという訳では無い。ただ、悪くなるくらいなら、変わらないと言われた方がいいのかもしれない。
「なんだ? ご不満ありまくりって面だな」
「えっ、不満そう?」
「おー、言いたいことがありすぎて爆発すんじゃねえか?」
「うーん」
上手く言葉にならなくて、胸の当たりがチリ、と痛む。
「ごめん、わからない。ゲンさんに相談したら手っ取り早く言葉にできるかな」
へらり、顔を上げて笑うのと、千空に抱き締められるのが同時だった。「千空」千空、と名前を呼ぶ。千空は力を込めるばかりで離してはくれない。
「千空?」
「あー、不合理極まりねえ」
合理性の話をされると、つい、萎縮してしまう。「千空」そして、もし、私の存在が彼を制限しているとしたら、それはとても、そんなことがあれば私は。「千空、私はいつでも、」千空の唇が、私の唇を塞いだ。
「それ以上は言うんじゃねー……」
千空の声は震えていた。途端弱々しく感じられる体を撫でてから、もう一度千空とキスをした。彼とは、ここから先に進んだことがない。
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20210612