村の子供に花を押し付けられた。暫く手の中で転がしていたのだが、意を決して立ち上がる。この時間ならば、なまえは夕飯の準備でも手伝っている頃だろう。……とするならば、もしかしたら邪魔になるかもしれない。そうは思うが、同時に、邪険にはしない確信もある。サッと行ってパッと帰って、俺も作業に戻るとしよう。
「なまえ」
「! 千空」
案の定飯の下ごしらえをしていたなまえに声をかける。なまえは隣で芋の皮を剥いていたばあさんに何やら声をかけた後、律儀に手を拭いながらこちらへ来た。大した用事ではない。ほんの数秒で片付く用だ。
近付いてきたなまえが足を止める「どうかした?」どうって程のことでもない。なまえの左耳に貰い物の花を挿してやった。不思議そうに俺が触れた辺りに手を翳して、手のひらは怖々と柔らかい花弁に触れていた。
「……ん?」
「やるよ。もらいもんだけどな」
「え、それは貰っていいものなの?」
「いいだろ別に。摘んで来たはいいものの邪魔になったんだろうな。村のガキに無理やり持たされた。100億パーセント深い意味はねえ」
「ああ、そうなの……」
なまえはややあって、「ありがとう」と笑った。昔から変わらない柔らかい笑顔だった。今はきっと、裏も表も作れてしまえるこいつが、努めて裏も表もないように笑う。ゲンを見ていても思うが、人間の心理が人よりよくわかってしまうのは、さぞ面倒なことだろう。
「落とさないように気を付けるよ。後で花を活けられるもの貰える? 水が入ればどんなでもいいから」
「おう。用意しといてやる」
しかし。俺が花を送ったことについては、深ァい意味があるのだと、言わなくても気づいて貰えるのは、大変に、おありがてえ。
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20190923:こう、10も20も意思交してそう。