「あ、なまえちゃん」

ちょっといい? と呼び止められて足を止める。ゲンさんはふらふらと近寄って来て「忙しいとこごめんね」などと薄く笑いながら大袈裟に手を広げた。

「ううん、大丈夫」
「そう? それならよかった」

たったこれだけの言葉があまりにもわざとらしくて笑ってしまった。だと言うのに、流石はメンタリスト様。この人の近くに居ると、ついいろいろ話をしたくなってしまうので不思議である。

「あのさあ、俺、ちょーっと千空ちゃんに用があるんだけど、集中してるのか全然気付いて貰えなくてさ。なまえちゃん、なんとかならない?」
「千空? ああ、確かに、あれは集中してるね……えーっと……、」

じっと数秒待ってから声をかける。

「千空!」

千空はゆるりと顔を上げて私の姿を視界に入れた。そこまで大きな声でもなかったが、しっかり千空には届いたみたいだ。

「ん……? なんか用か?」
「ゲンさんが用事だって」
「はあ? んなことでなまえを使うんじゃねえよ幼稚園児かてめーは」

これでいいだろうか。ちらりとゲンさんを見れば、「ありがと、助かったよ」と笑っていた。底の見えない、完璧な笑顔だ。私にはよくこういう顔で笑っているから、もしかしたら、私になにか隠したいことでもあるのかもしれない。まあ、無理に聞き出すことはないけれど。
じり、と砂を踏んで方向を戻す。

「じゃあね」

ばいばい、と手を振って、私は自分の仕事に戻った。

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20190921:(「はあ……、いいなあなまえちゃん……」「クク、そうだろ?」「はーあ……これだもんなあ……」)
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