手伝いで食材探しに森へ入った。いつもの事だから、それがどう、というわけではない。私は木の幹に背中をぴったりとつけて息を吐いた。服が雨粒で濡れている。世界は定期的に激しい光に包まる。咄嗟に、その後の衝撃に備えて手のひらで耳を塞ぐ。手を突きぬけて、雷鳴が轟く。しばらく村には帰れないだろう。雷が光るのも見たくなくて目を閉じるが、瞼では光を遮るには足らない。手のひらをつければわからなくなるかもしれないけれど、そうすると、耳を塞ぐ手がなくなってしまう。ならば、まあ、視覚による恐怖と聴覚から来る恐怖を両方軽減できる、今のスタイルでいいだろう。また、世界が光って、音が落ちてくる。……叫ぶほどではないが、昔から雷が苦手だ。

「……」

早く止めばいいけれど、日没までに止まなかったらどうしようか。どうするもこうするも。そうなれば、灯りなど持って来ていないし、ここで待っている他ない。では、完全に動けなくなる前に雷雨の中を帰ろうか? いいや、そうするにしたって、まだ、時間はある。もう少しあとでもいいハズだ。もしかしたら、雷だけでも、過ぎ去って行くかもしれないし。普段はあまりしない溜息を吐いてじっとしている。と言うか、溜息なんてついたのは、石化から戻ってはじめてのことだったかも。私は私が思っているより、雷が好きではないらしい。深く吸い込んだ息が、溜息に変わりかけた時。
雨音と雷鳴の合間に、がさ、とすぐ側の草が揺れた。

「よお、生きてっか」
「……千空かあ。びっくりした。雷雨くらいじゃあんまり死なないよ」
「そりゃあなによりだ。それにしても、いきなり降り出しやがったなあ」
「そうだね。でも、これだけ木があるとどこででも雨宿りできて便利じゃない?」
「ハッ。物は言いようだな。確かに今はおありがてえ」

大きめの布で雨を防いで来たようだけれど、それでも少し濡れている。私は耳を塞いでいた両手のひらで千空の頬に乗ってる雨粒を拭った。「俺よりお前の方が濡れてんじゃねえか」と千空も同じように顔の水を拭ってくれた。ついさっきまでなにか作業をしていたのだろう。彼の手からは薬品の匂いがする。

「いい木見つけたな。ここならしばらく休めるじゃねえか。こんな雨はすぐ止むだろ」
「すぐ止むかな」
「止まねえってことはねえよ」

雨だからな、100億パーセントいつかは止む、と千空は笑った。それはそうだ、と私も笑う。
手は、どちらからともなく繋がって、腕がくっつく至近距離で、改めて木に背中を預ける。二人並んでぼうっとしている。千空が上を見ているから、私も暗い空を見つめた。こんなことが、もっと小さい時にも何度かあった。高校に入ってからも、確かあったなあ。ただ、今と昔では状況が違う。昔だって大概時間を取らせて悪いなあと思ったのだけれど、今はその罪悪感が尋常ではない。皆が、彼を待っているのに。だというのに、わざわざ、こんな所まで迎えに来て。彼に伝えたい言葉がありすぎて喉が詰まる。深い呼吸を繰り返す私の隣で、千空が繋ぐ手の力を強めた。「なまえ、」と呼ばれて千空を見上げる。

「足りてっか?」

足りているか。

「何が?」
「俺が」

千空が。
……、…………。

「……いや、……あの、千空……、千空さあ」
「こんな時じゃねえと、こんな暇ねえからなあ?」

例えばこれが私じゃなかったなら、このあとしっかり手伝えよ、だとか、この後死ぬ程働けよ、だとか、そういう事を言うのだろうけれど。

「ほれ、さっさと来い」

俺はこの為に来たんだぜ、などと得意気な笑顔を作られてはお手上げだ。ゆるく広げられた腕に収まりに行くしかやることはない。罪悪感は依然あるが、何割かは悪事を共有したような気持ちに変わった。


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20190907:たぶんこの二人はあんまり嫉妬とかし合わない気がする…。いや…、あいつは相当俺(私)が好きだ。ってお互いに言えちゃうイメージ。
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