寝転がって星を眺めていた。拠点から遠ざかりすぎたかと思うが、このくらい離れると静かでいい。自然の音だけが聞こえる。人が石にされた世界は静かで、私なんかはいてもいなくても変わらないのだろうと思う。今夜はここで寝るのもいいなと目を閉じる。

「まーたお前は一人でこんなとこほっつき歩いてよ。なにしてんの」
「……散歩」

落ちかけていた意識が一気に覚醒した。スタンリーは寝転がりながらそう答える私を引き起こして、私の背中や髪についた土や葉っぱを払った。三千七百年前にも似たようなことがあったな、と思い出していると、スタンリーは呆れたように笑った。煙草を持ち換えて、私の手を取る。

「散歩な。ほら、一緒に帰ってやるから、こっち来な」
「んん」

イマイチ反応が悪い、というか半分寝ていたのでいきなり歩いたらぐらぐらする。のろのろとした足取りで続くが、数歩で足を止めた。私が彼の部下であれば、怒鳴られているのかもしれない。

「どうしたよ」
「私今日はここでいいよ、面倒だし」
「それはいけないよなまえ」

一緒に来ていたのか、別々に来たのかわからないが、ひょこりとゼノが顔を出すので、驚いて体が震えた。

「うわ、ゼノまで」
「おお、そんな風に驚かれるなんて心外だ!」

一番忙しいだろうに、こんなところまでわざわざ。そう考えると申し訳なくなってきて、大人しく歩き出した。「ゼノの言うことは聞くのな」スタンリーはそう言ってじとりと私を見る。「ごめんね。ちゃんと帰るよ」帰るから、そんな顔をしないで欲しい。
ゼノも私の隣に並んで、ふと、彼らは何やら合図を交わした。私にはわからないやつだ。なにをするつもりなのかとぼんやりしていると、ゼノとスタンリーは同時に、私の腕を自分の腕に引っ掛けた。
足が地面から浮きそうだ。ほとんど自分では動いていない。

「いや、そんなに心配しなくても」

ちゃんと歩くし、転ばない。私の主張は彼らに聞き入れられず、彼らはいつもそうであるように好き勝手に私に声をかける。

「帰ったら飯な」
「その後は体を拭いてあげようか」
「ご飯は食べるけど清拭は結構です」
「おや。なら一緒に寝ようか」
「子供じゃないんだから」
「しかたねえよ。こうでもしておかねえと、お前、すぐどっか行くじゃんよ」

ゼノも頷いている。そんなことはない。確かに一人でいるのは好きだが、帰れないわけではないし、道に迷うわけでもない。二人がかりで迎えに来て貰う必要など本来はないのだ。むっとする私に対して、二人は上機嫌に私を引き摺っている。

「ちゃんと帰って来るでしょう、いつも」
「そうだったかね。どう思う、ゼノ先生」
「いいや。いつも痺れを切らした僕らが迎えに行っていた。だからこの処置は適切だよ。スタン」

多数決では大抵負ける。呆れて溜息を吐き、力が抜けた笑顔を作るしかやることはない。私はなんの罪を犯したのか連行され、こんな間抜けみたいな状況であの場所へ戻るのだ。誰にも見つからないといいが。どうしたものかと考え込んでいると、二人は同時に足を止めた。またか。二人の動きや言葉が揃っている時は、大抵何か悪いことを企んでいる。

「なまえ」

彼らは、私の髪にそれぞれ唇を寄せてリップ音をたてる。左右で違う音がした。二人は引き続き楽しそうだ。くつくつと笑っている。近頃、というか、再会してから彼らはこういうことをよくするようになった。幼馴染にしては距離が近い自覚は以前からあったが、キスをされた記憶はない。どういう心境の変化なのか。私は知らない。聞くのは少し怖い。いや、それよりもだ。

「私はあんまり気にしないけど、こんなん特にルーナちゃんが見たらびっくりするから、みんなの前でやったら駄目だよ」

ゼノとスタンリーはまた二人で顔を見合わせて、今度は同時に私に絡んでいる腕に力を込めた。ふわりと足が浮き上がる。これは結構不安だ。私はおかしな体勢で運ばれながらじっとしていた。はじめは意味がわからないと思っていたが、その内に慣れて、気にならなくなった。楽でいいかもしれない。

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20210607アメリカ組にドハマりした。
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