なまえは必要最低限で生きている。あまり余計なものを持ち歩かない。しかし、持つのが嫌いで堪らないというわけではなくて、イマイチ何を持ったらいいのかわからない様子だ。杠が適当にサポートするが、それでようやく女子高生ギリギリだ。

「……」

俺がなまえに言えることは無い。言うつもりもないとは思うのだが、目に入ったんだから仕方ない。バニラの、甘い匂いがするハンドクリームを俺はしばらく睨みつけて、店員にあれこれ言われる前に買った。
自分の為にではない。
帰り道で、ふと隣をぼうっと歩くなまえを盗み見る。

「なまえ」
「ん?」
「……寒ィな」
「うん。寒い」

なまえがいつだかチーズケーキを差し入れに来た時の気持ちがわかりすぎて震える。あいつはこんなものを乗り越えて俺に渡したのか。いや、手間的にはなまえのケーキの方がかかっているだろうし、となるとこの気持ちもなまえの方がデカかったのかもしれない。

「あー、なまえ」
「ん?」
「アイス食いたくねえか」
「こ、この寒いのに? い、いや、いいよ付き合うけど……」
「……」
「あれ? ご、ごめん、なんか返し間違えた? 行くわけないって言うところだった?」

珍しく、なまえが慌てている。
しかたない、俺でさえ俺がわからねえからな。読み切れなくて当然だ。いつまでもグダグダやってても仕方ねえ。渡すことは決めている。ならばさっさと渡すだけだ。

「これやるよ」
「ん? なに?」

なまえは俺が放った放った紙袋をしっかり受け取り中を開いた。「あ、」なまえがひょい、とハンドクリームを持ち上げる。

「ハンドクリーム」
「……おう」
「貰っていいの?」
「じゃなきゃ渡さねえ」

なまえはありがとう、と笑って早速ハンドクリームを少量手にのばした。ふわ、とバニラの匂いがする。全然全く科学的ではないのだが、なまえっぽい気がして選んだ匂いだ。それがまた、このイベントの難易度を上げてきやがる。

「はい」
「あ?」
「折角だから千空もどうぞ」

なまえに手を掴まれて、余ったクリームを塗り込まれた。同じ匂いがしていて、手を顔に近づけるのが躊躇われる。
あー、クソ甘え。


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20191110:ハンドクリームの日だそうな!
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