用もないのに空を見上げる姿を見かけていた。曇りの日や雨の日はしないが、太陽が出ていると、特に雲一つないような空だと、よくやっている。今日もまた、困ったように空を見上げるなまえを見た。その仕草はなんとなく面白いので放っておいてもいいのだが、あまりに頻りに見上げているものだから、とうとう声をかけてしまった。

「なんでそんなに空なんて見上げてんだ」
「あ、千空。いやいや。全然、全然なんでもないよ」
「いやなんでもありまくるだろその反応」
「ありまくるって程のことでもなくて」
「なんだよ」
「……ううん。大丈夫」

言いながら、なまえはまたちらりと空を見た。
俺たちは確かに尋常ならざる相互理解のある幼馴染ではあるものの、お互いの全てを知っているわけではない。俺には俺の時間があり、なまえにはなまえだけの時間があった。もし、少しでも話したくないと思うなら、無理に聞き出すつもりはない。

「俺には言いたくねえってか」
「まあ、まあ、そんな、っていうか、空、じゃなくてあの、太陽?」
「太陽が?」
「……太陽が、出てるな、と思って」
「あ?」

いろいろ考えを巡らせればわかりそうなことではあったが、この流れならばなまえは自分から話すだろう。今回のことは、なまえがそう言ったように、本当に大したことではない可能性が濃厚になってきた。この渋り方は、大方、自分の柄ではない、とかそんな理由で話すのを躊躇っているだけだ。

「出てちゃまずいのか」
「ほら、あの、あれ」
「いくら俺でもあれじゃわかんねえよ」
「あれ」
「だからあれってなんだ」
「シガイセン」
「紫外線?」

太陽光の中含まれる電磁波の一種だ。……、そんなものを、なまえが気にする? 俺の表情から、なまえは俺が知りたい情報を歯切れ悪く白状した。

「アルバイト先の人、めちゃくちゃおしゃれで。私はあんまり気にしなかったんだけど、すっごい熱心にいろいろ教えてくれて……、特に紫外線は気を付けなきゃいけないって日焼け止めまでくれて……、毎日毎日言われてたから……それでその、若干気になる、だけ」
「……」
「その内気にならなくなると思うから、ね、大したことなかったでしょ」
「そーだな。心配して損したまであるな」
「ごめんね、あんまり余所見してるの危ないし、気を付けるよ」

なまえはへらりと笑って歩いて行った。相変わらず、さらっとした奴だ。まあ、俺は、あいつが言う程潔い人間ではないことも知っている。だからこそ、簡単に白状して行った紫外線については、裏も表もなく大した問題ではないと思っているのだ。ならばいい、となるはずだが、なまえの気がかりとは別に、俺も気になっていることがある。なまえは気付きようがないだろうが、恐らくあの男はこういう隙を見逃さず、「あ」
気を付ける、と言った矢先のくせに、なまえはふ、と空見上げた。そのまま数歩歩いたせいで足元の石に躓き……、そしてそれを、正面から歩いて来たゲンが受け取めた。……なまえとメンタリストは、いくらか言葉を交わしてすぐに別れた。が……。

「……」



「なまえ」
「ん、わっ」
「気になるときはそれ被っとけ」

頭から腕まですっぽりと被れるマントを渡すと、「え、あれ、わざわざ?」とやや不審がるが、理由について深く勘繰ることはなかった。素直に身につけて、ゲンに向けるのとは明らかに違う種類の笑顔を俺に向ける。

「ありがと」
「おー、もう余所見して歩くんじゃねーぞ」


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20191015:「ねーねー、千空ちゃん。なまえちゃんさあ、最近あれ、やらなくなっちゃったね」「あ?」「ほら、晴れてる時によく空見上げてたじゃない? 俺、あれセクシーだから結構好きだったんだけど」「そういう目で見てくるやつがいるからやめたんだろ」「えードイヒー」
ligamentさまからお題お借りしました。お題【快晴】)
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