獄都事変 | ナノ


2019年バレンタインを巡る九つの戦い/肋角  





チョコレートを配り終えたのだが、どうしてか、舘は通夜のような雰囲気に包まれていた。これは一体どういう事なのか。こんなくだらない様なことを肋角さんに聞くというのも気が引けたが、雰囲気が悪すぎて耐えられない。
何故私は私の上げた菓子の包みを、お互い残念そうに見つめる後輩達を眺めていなければならないのか。というかなんだそれは。がっかりされると割合にショックなんだけれど。

「肋角さん」
「夜子か」
「あのこれ、バレンタインのチョコレートなんですけど」
「……」
「どうかしましたか」
「いいや。同じ包みだと思っただけだ」
「それなんですが」

肋角さんまで、何やら根も葉もない噂を間に受けているらしい。どんな噂か知らないが、なんて迷惑な。

「私、チョコレート、それしか用意してませんけど」
「本命にはいいのか」
「は?」
「ん……?」
「本命って、なんの話しです?」
「まさか、いないのか」
「まさかもなにもそんなもの……、と言うか、そんなことで、あんなことに……?」

私たちの間に、微妙な空気感が立ち込める。噂というのは、つまり、私には本命がいるらしい、というような……。かなり大きめのため息をついた。

「ちょっと出てきます」
「どこへ?」
「これでも一生懸命作ったんですが、平腹くらいしか喜んでくれてなかったので。みんなのことが本命みたいなものなのに、と思うと、これって拗ねていい案件な気がしますし」
「夜子、待て」
「今日と明日は帰りませんのでよろしくお願いします」

獄都では、慌てた後輩達が血相を変えて方々を走り回る姿が丸二日見られたという。


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20190312:ありがとうございます。先輩にも感情はあるというところで。

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