獄都事変 | ナノ


2019年バレンタインを巡る九つの戦い/谷裂  




「先輩。今までお世話になりました」

いやどうした。
私は驚きのあまり言葉を失って、谷裂の少し腫れた両目を見上げた。え、なになになんだ? 私はこれからどうなるのか? 私ではなくて、どうにかなるのは谷裂なのか?
谷裂は私に真っ直ぐ菓子折りを差し出している。何故こんなことになったのかわからないまま、それを受け取るわけにはいかない。そんなことをされたら、まるで私がどこかへ行ってしまうみたい……はっ!?

「わ、私は異動なんてしないよ!?」

こういうことか! 後輩達の挙動不審の原因である私の噂と言うのは、つまり、『先輩はどこかへ異動になるらしい』と言うような……。

「? 知っています」

違うんかい。
谷裂はキョトンと目を丸くした。しかし、すぐに、また難しい顔をして深刻な挨拶をし始める。「先輩、これつまらないものですがもらってください。今までお世話になってきたお礼がこんなものでは足りませんが……」待て待て。

「いや、私、別に」
「先輩の幸せを祈っています」
「へっ?」
「では」

私がなかなか受け取らないなら、谷裂は私の頭の上に菓子折を置いて全速力で走り去って行った。渡し方の雑さが余裕のなさを示している。ええ? なん、なに? もしかして、谷裂どこかに行っちゃうのかな……? いや、そんな話は聞いてないし……、けどもし谷裂がどこか行ってしまうなら、私もなにか渡したい。
肋角さんに報告もあるし、聞いてみることにしよう。


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20190302:多分泣いてた

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