獄都事変 | ナノ


2019年バレンタインを巡る九つの戦い/木舌  




平腹が知らないのならば、おそらくそう大きな事件ではないのである。割合にどうでも良いような筋からの、きっと噂話程度の何かが彼らを蝕んでいる。獄卒にもなって噂話もないものだ。いや、はっきりと何が起きたかはわからないけれど。それでも私は、今回の件が大したことではなさそうだとわかると、若干だが肩から力が抜けた。
しかし。
と、私は考える。
足には酔いつぶれた木舌が張り付いている。

「ふふふ、先輩。どこにもいかせないからね」

私を見るなり酒瓶を廊下の隅に置いてタックルしてきた。木舌がそんな行動に出ることは予測できていなくて捕まってしまった。ぎち、と木舌の大きな手に掴まれて、私の足が軋んでいる。

「痛い痛い。離して離して……」
「そんなこと言って、おれの知らないところに行くつもりなんでしょ」
「行かないから大丈夫だって……」
「嘘だ……」
「嘘じゃないよ……」

こんなに悪酔いする木舌は珍しい。と言うかそろそろ本当に足が折れそうなのだけれど。じわ、と目に涙まで浮かべて、お酒の熱に当てられた木舌がこちらを見上げている。

「普通に任務だよ……」
「じゃー、おれも連れてって」
「いや、何日もかかるから一緒には行けないよ」
「ほら、いつもそうやってひとりで」
「一日で終わるようなのがあれば連れてってあげるから」
「ほんと?」
「着いてくるなら仕事させるけどそれでもよければ」

木舌はぱっと私の足から離れて、大きな体をごろごろとさせながら控えめに言った。「ふふ、やった」と。休日を返上してまで私の仕事に付き合うことはないのに。
しかし、まあ、よろこんでくれているからこれでいい、か?

「じゃあ、任務行くからね」
「うん。いってらっしゃい」

木舌は上機嫌だ。さっきまでの異様な絡みはどうしたというのか。酔っぱらいの扱いは相変わらずに難しい。私は首を傾げながら「いってきます」と背を向けた。


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20190302:先輩先輩。

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