獄都事変 | ナノ


2019年バレンタインを巡る九つの戦い/抹本  




錠剤とカプセルが入った瓶を差し出された。
私は目の前の黄緑色の瞳を見下ろす。
頬を上気させて何を言うかと思えば、

「先輩、これ、よかったら」
「……一応聞くけど、これなに?」
「ち、チョコレート、です」
「いやこれ、」
「チョコレートです」

頑なにそう言うから受け取るが、蓋をとっても怪しげな香りが立ちこめるだけでチョコの匂いは一切しない。もちろん茶色くもない。私は無言で蓋を閉めて、「ありがとう」とだけ言った。鑑識(先生のところ)へ回して大丈夫だったら食べよう。

「じゃあ」
「あ、せ、先輩」
「うん?」
「あの、えっと、こ、ここで食べてくれませんか……?」
「……」

私はもう一度視線を落として瓶を見る。明らかにチョコではない。薬だこれは。ここで問題なのは何の薬かという事だ。彼は経過観察がしたいばかりなのだろうが私にはまだ仕事がある。まだ倒れてあげる訳にはいかない。ううむ。仕方がない。

「抹本?」
「? はい」
「これ、薬でしょ?」
「チョコも入ってますよ」
「チョコじゃないやつのがいっぱいはいってるよね?」
「そ、そ、そんなことないですよ」
「嘘は、よくないね?」
「うっ」
「何の薬?」
「洗脳です……」

災藤さんといい抹本といい……。もしかしてやっぱり私、なにかしてしまったのだろうか?洗脳の薬を盛られるようなことを……?

「……フツーのチョコなら受け取るから」

全く思い当たることがないのだが、私は不安を胸にしまいこんであくまで、あくまで先輩然として抹本の頭を撫でておいた。洗脳薬は返した。


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20190211:錯乱してる、多分みんな。

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