私は手渡された宝石箱のようなものを見ながら言った。
「あの、災藤さん、これは一体?」
「バレンタインのチョコレートだよ」
ああ、バレンタイン。バレンタイン…、バレンタイン? 私は高速で今日の日付について考え始めた。十日、と書いてある。まだ四日もある。いや、本当に問題なのは日にちがズレていることだろうか? そうではなくて、こんなに高そうなチョコレートを手渡された事の方が問題なのではないか? ……そっちだ。間違いない。いや、しかしこれはもしかしたら。みんなで食べろと言うことかもしれない。たまたま受け取ったのが私であっただけで、中身も外見も私だけのものではないのかも……。
「ちなみに、それは全て夜子にあげたものだから、誰かに勝手に食べられたりしていけないよ」
「あ、ハーイ……」
釘を刺された、思考を読まれている。
「四日前倒しなのは、ちょっと仕事でね」
「そ、そうなんですね、いや、でも、私だけこんな高価なものを頂くわけには」
「そういう日だろう?」
「まあ」
「どうしても気になるというのなら、そうだなあ」
包装、袋、きっと中身も。何をとっても完璧だった。キラキラしたチョコレートが敷き詰められているに違いない。私はちょっと手が震え出す。この流れはなんだかまずい、そんな気がした。
「値段は高くなくてもいいからそれよりすごいお返しをくれるかい?」
私はどうにか、わかりました、と言って災藤さんを見送った。突き返す訳にもいかないし、無理ですなんて言えるはずがない。私は背筋が凍っていくのを感じていた。
「ええ…」
私、もしかして、なにか。怒られるようなことでもしただろうか?
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20190210:バレンタインまでに全員はあがらないですゆるしてください。