2月になりましたね、とあやこちゃんは言って、2月になったわね、とキリカさんも言った。はてなにかあっただろうかとカレンダーを見ると、14日に、バレンタインデーと書かれていた。
そう言えば毎年何かしらお菓子をあげている。今年もなにか用意しなければ。あやこちゃんとキリカさんと被らないように、事前に打ち合わせをするのが恒例だ。
「私は、今年もブラウニーでいいかなって」
「それなら私たちはチョコのケーキでも作りましょうか」
「はい」
打ち合わせは大抵一瞬で終わる。ぱきっとした女性ばかりで助かるな、などと私が席を立とうとすると、キリカさんが私の肩を掴んで言った。
「で、夜子ちゃん本命にはどうするの?」
「……本命なんていませんけど」
「いるかいないかなんて野暮なことはいいのよお。もし本命チョコをあげるとしたら、どうする?」
「……ええ?」
「うーん」と私が考え込んでいると、あやこちゃんのもう一つの口が「さっさと話せよ! 本命チョコについて!」と返答を急かしてきた。考えたことがないけれど、本命というからには特別ということなのだろう。
特別手の込んだものを作る、とか? いや、私の場合は逆に、私が作れないような高い、宝石のようなチョコレートを買って渡す方が特別かもしれない。
「宝石箱みたいなチョコレートでも、買ってこようかな」
「いいわねえ! ああいうのってあげるのもいいんでしょうけれど、貰ってみたいわよねえ」
あやこちゃんがふんふん、と力強く頷いている。私もゆるく何度か頷いた。宝石のようなチョコ、かあ。キリカさんの言う通り、あげるのもいいけれど、今年に弾みを付けるために、自分用に買うのもいいかも知れない。
今度この世に行ったら見に行ってみよう。
「じゃあ、チョコケーキ楽しみにしてます」
「夜子ちゃんのブラウニーも楽しみにしてるわね」
この時私は知りもしなかった。
こっそり話を盗み聞きしていた獄卒により「夜子先輩には本命がいるらしい」などという噂が流されることになるとは。
-----------
20190207:悩んだけど先輩シリーズでバレンタイン一通り書きます。