獄都事変 | ナノ


20190214/平腹  




二月一日のことだった。
書類に間違えて1と書いたから、慌てて線を足して2にしておいた。そんな日の昼。嵐のような獄卒に捕まった。

「お! 夜子じゃん! チョコレートくれ!」
「まだ今年の豆まきも終わってないのに……」
「マメ! マメのチョコくれ!!!」
「ええい要求を増やさないの」
「チョコ!!!!!!!」

頑として私の前から動かない平腹を前に、私はポケットに手を突っ込む。なにかないか。昨日舐めたのど飴のごみ、いつかメモした買い物リスト、あとこれなんだ? ああ、何故か斬島にもらったビー玉…。期待させやがって飴玉だったらまだここを乗り切れただろうに。

「チョコ欲しいの?」
「おう。チョコ食いたくねえ?」
「まあ、食べたいけど」
「持ってねえの?」
「ないよ……、ちょうど切らしてる」
「マジかー」
「マジだよ」
「豆も?」
「豆なんかもっとないわ」

カバンやポケットから大豆が出てくるのなんてドラゴンボールのキャラクターだけだ。私は両手をあげて降参した。ないものはない。しかたがない。何を期待してカツアゲに来たか知らないが、バレンタインに出直してきて欲しい。

「なら買いに行こーぜ!!!」
「何を? マメ?」
「マメだっけ?」
「チョコの方?」
「そうそう! チョコ!!! 買いに行こーぜ!!!!」
「……なんで?」

これは一体何が目的だったのか。とうとう分からなくなってきた。

「なんで? 夜子もチョコ好きだろ?」
「まあ、割と」
「じゃあいーじゃん」
「……」

どこが? 私は思ったが、なんだか面倒くさくなってきた。もしかして、田噛は平腹の隣にずっと居るからあんな性格になったのかもしれない。私も田噛二号になりそうだ。

「よし、行くかー」

平腹は黙っている私を米俵のように担いで歩き出した。抵抗するのも理解しきるのも面倒になったから、私はだらりと平腹に移動をまかせることにした。通りかかった佐疫に「なにそれ? 田噛ごっこ?」と聞かれた。私は運ばれながらやや考え、そうだと、応えようとした。「ちげーよ、デート!」えっ、そうだったの。


-----------
20190203:バレンタイン誰書くかなって…もう何人かあげたい…

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -