獄都事変 | ナノ


怪我をした日/佐疫  




まだ寝ていた方がいい、と言われたが、じっとしていられずに部屋を出た。大怪我をした翌日だった。外に出たとは言っても館の外からは出ていないし、まだ痛むから廊下の窓から外を見ていたくらいだ。

「お! 夜子じゃん!」

生き返ったか、と、外から手を振る平腹に二階の窓から返事をする。ふと平腹から視線を外すと、とんでもなく険しい顔をした佐疫がこちらを見上げていた。そんな顔初めて見た。
佐疫は無言で館に戻ってくると、階段を駆け上がって私の横まで走ってきた。あそこから飛べばよかったのに。優等生故そういうことはできないのかもしれない。私は平腹にしたように片手をあげて挨拶をした。平腹はと言えば、もう私に手を振るのは飽きて、どこかへ行ってしまっている。

「おはよう、佐疫」
「……」

佐疫は無言で私の手を掴んで、ひょい、と私を抱き抱えた。「ひょ」予想していなかった動きのせいで、変な声が出てしまった。ええと。佐疫、佐疫さん? 佐疫は私睨むように見詰めていたが、しばらくそうしていると歩き出して、私を私の部屋に運び込んだ。
ベッドに座らせてくれたので、「ありがとう?」とお礼を言った。言ったが、尚も佐疫からの反応がない。怒っているらしい。それなら確かに、ありがとう、ではないな。

「ごめんね……?」
「絶対安静、はい」
「え、なに?」
「繰り返して、絶対安静」
「あ、ああ、絶対安静……」
「もう一回」
「絶対安静」

聞いたこともないような声で叱られて、私は大人しくベッドに潜った。平腹と遊んだ訳でもないのに、少々過剰なのではないか。今言ったら火に油を注ぐことは明白だから言わないけど。「ごめんね」謝罪を重ねると、佐疫は「もういいよ」と(たぶん)許してくれた。「けど」佐疫の顔を見上げる。

「次外をふらふらしてたら、」
「うん」
「俺が、膝枕で見張るから……」
「んん?」
「っ、わかった……?」

照れるなら言わなければいいのに。私は無言で赤くなった佐疫の顔を見上げた。ううん。どうするべきなのだろう。わかった、と、素直に頷くべきな気もするし、折角だから膝枕を強請っておくべきな気もする。

「……」
「な、なに……? 返事は?」
「このままだとまた外に出たくなりそうだから、見張っておいて」

私が言うと、佐疫は自分で言ったくせに「へ、」と気の抜けた声を出して、水色の目を丸くした。私に合わせて、平常心を保とうと帽子を目深に被り直していたけれど、私は下から見上げているのであまり意味が無い。

「しょうがないなあ、夜子は……」

佐疫の膝枕は驚くほどよく眠れた。


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20190113:佐疫はいいゾ

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