ちょっと異常だ。とは、常々考えていた。これはおかしい、と、既に確信もしている。
「あの」
「ああ、そろそろ昼食にしようか。休みだからと言って生活が不規則になるのはよくない」
「いえ、その」
そうではなくて。言う前に、災藤さんは膝に頭を乗せている私を引き寄せて、そのまま横向きに抱き上げた。首元に唇を寄せられて、あたたかい息がかかる。「行こう」灰色の瞳がそっと微笑んだ。
「そうではなくて、」
ようやく口にした言葉に、災藤さんはきょとんとわたしを覗き込む。そうではなくて。言わなくてもこの異常事態に気づいて欲しい。だが、何も言わなければ何も止まらないし、これは災藤さんが意図してやっている事だとしたら、抗議しなければ彼の都合の良いようにしか動かないだろう。
「ひょっとして、どこか調子が悪い?」
「まあ、悪い、ですよね」
「先生に見てもらおうか? それとも、今日はもう私の部屋で休むかい?」
「そう、ですね、ちょっとひとりに」
「私が、調子の悪い君をひとり置いておくなんて、できるとでも?」
「子供じゃないんですから」
「子供のようなものさ」
近くの部屋の適当な椅子に座ると、私は災藤さんの膝の上に座らせられて、災藤さんから見上げられている。空いた手で私の手をするりと取って、蛇のように絡みつく。どう考えたって、子供にやる事ではない。
「夜子」
「……はい」
返事をしないと何十回と呼ばれるから、返事をした。そう、はじめは、こんなもんだったのだ。災藤さんにやたらと、名前を呼ばれる。それだけだった。たったそれだけだったのに、一つ一つ構われることが増えて、今では四六時中腕の中だ。いや、さすがに彼も仕事があるのでその時間は唯一解放されるけど、それ以外は、寝る時もなにもかも、手の触れる範囲に災藤さんが居るのである。
「私の部屋でゆっくり食べることにしようか。それならいいだろう?」
こちらを見ているようで、見ていない目が、私の感情を吸い上げて、輝いているように見えた。このひとは、私を一体、どうしたいのだろう。
「大丈夫、私が食べさせてあげるよ」
大丈夫、と繰り返される言葉の意味すら、分からなくなってきた。大丈夫って、どんな意味だっけ。
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20190111:災藤さん?