獄都事変 | ナノ


支配下にある/助角  




料理がキラキラしているのか、照明が特別なのか、ホールの中のものは全てが輝いて見える。橋の方にあるピアノに視線をやっても、隣のテーブルの白いクロスを視界に入れても、どうしたって落ち着かないから、目の前の料理に視線を落とす。野菜ってこんなにキラキラした食べ物だっけ? キャベツ一枚がこんなにも美味しい。ちょっと異常なくらいだった。

「落ち着かないか?」

真正面から声をかけられて肩が震えた。高級ホテルのレストランを漂う生暖かい熱が一気に顔に集まって、赤面までしてしまう。そんなに落ち着きのない態度をとってしまっていただろうか。確かに、色んなところに視線をさ迷わせていたかも。

「だ、大丈夫です」

髪でもいじって落ち着こうと手を伸ばしたところで、普段はしない耳飾りと爪がぶつかってかちりと音を立てた。目当ての髪の束は触れない。髪型がいつもと違うからだ。
私の方は心の底から落ち着かないわけだけれど、助角さんは落ち着いている。助角さんだって普段は着ないスーツのくせに、この落ち着きようは一体?

「助角さんは、慣れてますね?」
「そんな風に見えるか?」
「いつも通り、すごく落ち着いていますから」
「いつも通りか」
「はい 」

ただし、このレストランのせいかかっこよさは天井知らずに上がり続けている。ここの照明、おかしいんじゃないか?キラキラしているというかもう、なにか星でも集まってきているのでは?私はこのひとの正面に座っていて大丈夫なのだろうか。雰囲気の圧に粉微塵になるかもしれない。
助角さんは「ふむ」と何か考え込んでいたが、そのうち、メインディッシュを口に放り込んだ。絵になる、と言うより、もはや絵画か?
少し見つめすぎた。助角さんが顔を上げると、私の頼りない瞳と目が合ってしまう。

「いつも通り、か?」

に、と悪戯っぽく口角を上げられたから、私は今すぐこの場で派手に爆発していなくなりたい衝動に駆られた。平静は先に逃げている。

「……もう、そのくらいにしておきましょうよぉ……」

顔をおおって情けない声でそう言った。いつも通りではない。なにもかも。きらきらする世界も、自分を彩っている服も髪も。割増でかっこいい助角さんも、いつも通りでは断じてない。
は、と助角さんが楽しげに笑う音がした。

「もちろん、部屋も取ってあるんだが?」

今そんなことで大丈夫か。くつくつと笑う助角さんは完全に楽しんでいるし、私はもうここがどこであるとか関係なしに、簀巻きにでもなって海にでも沈みたい気分だった。
間違いなく、大丈夫ではない。


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20190106:上司組とおとななデートしたくない?したら死ぬと思うけど。精神的な圧で。

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