獄都事変 | ナノ


2019年福袋の話/谷裂  




思いがけず、連れを得た。
大晦日に馬鹿騒ぎしていた特務室で、私はひとり早々とその会から離脱した。それを見ていた谷裂が、「もういいのか」と言うものだから、私は「明日早く起きて福袋買いに行くから」と答えておいた。谷裂はやや考えて、こと、と手に持っていた酒をテーブルに置いた。そして私に続く。「俺も行こう」と。
私達は朝待ち合わせ場所で会うとあらためて、あけましておめでとうございます、と言い合った。新年の挨拶は私が先だったが、今年もよろしくお願いします、とは谷裂の方が先に言った。

「今更、だけど」
「なんだ」
「本当に来るの?」
「……邪魔か?」
「いや、正直嬉しいけど、寒い中外で待ったり人の中押し進んだりするから、谷裂が得できることなんてないんじゃないかと思って」

狙っている福袋も女物の服だから、きっと谷裂にあげられるようなものは無い。良いのだろうか。ついてくる、と言うので、なんとなく外に散歩にでも行きたいか、あるいはあの会を離脱できる理由を探しているのだと思ったのだけれど。それにしては、私の連れ、と言うのも過酷な気がしてきた。

「そうなのか」
「まあ、そう、かなきっと」
「そうか」
「いいの?」
「いい」
「わかった。ありがとう。無事買えたら昼ご飯でもご馳走します」
「充分だ」

谷裂は私の言葉に短くてわかりやすい返事を繰り返す。何か聞く度に頷く姿は小さな子供みたいで少し面白かった。「ありがとう」ともう一度言った。
とは言いつつも、実際人間の群れを見ると顔を顰めていた。こういう所絶対苦手だろうに。しかし、文句も言わずにじっと耐えている。谷裂の性格的に、今更あれこれ言うようなことは絶対にない。私は道の向こうに喫茶店を見つけて、谷裂の服の裾を引く。「ねえ、谷裂」

「あそこで時間潰しててもいいよ。私の本貸してあげるから」
「……」

谷裂の紫色の目がこちらを見下ろしている。丸く見開かれていて、返事がない。なにか、そんなに驚くようなこと、してしまっただろうか。ついでに凍ったみたいにかちりと止まって動かない。

「……? 大丈夫?」
「っ、本は、いい」
「そう?」
「ここに居る」
「うん?」

「ああ」と谷裂は顔を赤くして私を見下ろしている。私は結構寒いのだけれど、もしかして、暑いのだろうか。防寒のし過ぎ、にも見えない……。ただ、いつもより熱と水分多めの瞳が気にかかる。「本当に大丈夫?」私が言うと。

「ああ」

と谷裂は繰り返した。「……列が動いたぞ」ようやく目を逸らした谷裂だが、顔どころか耳まで赤かった。私がもう一度大丈夫か聞こうとすると、聞く前に「問題ない」と呟いた。
この後無事福袋を手に入れると、谷裂は大きなバッグを持ってくれて、昼ご飯を食べた後、初詣にも行った。特務室まで帰ってくると、任務に行くという谷裂を見送ったところで、「デートみたいだったな」と気が付いた。
そう言えばあの時、まるで恋人みたいな距離で見つめあっていたかもしれない。


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20190103:谷裂のかわいさよ…

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