獄都事変 | ナノ


君と旅する三日間/一日目/01  




「おはよう」
「……おはよう」
「今日は、いい天気だね」
「そうだな」

朝、八時、館の前で待ち合わせだった。助角さんに預かった切符を渡して、連れ立って歩く。私が先を歩くのかと思えば、田噛が前を歩いて、私はそれに後ろからついていっていた。
ツルハシを担ぐ田噛の背中を見上げていると、田噛がくるりと振り返った。

「おい」
「ん?」
「お前、なんで」
「?」
「……あー、いや」
「……」
「いい」
「そう?」

駅までの会話はそれだけで、私と田噛は無言のまま改札を通って、列車の客室に入った。私が一人の時は簡単なベッドがあるだけの部屋だけれど、今日は田噛と一緒だから、二段ベッドで、部屋も広い。今日、明日、明後日には目的地に着く。
深い赤色を基調にした落ち着いた室内で、窓に沿ってテーブル、ソファが二つ置かれている。ベッドの傍らには小さな棚。その上にアンティーク調のランプが固定されている。モチーフはすずらんだろうか。
荷物を置いてソファに座る。
田噛も同じようにして、私の正面に座っていた。

「田噛どっちがいい?」
「あ? 上」
「ふうん?」
「なんだよ」
「いや、上がるの、面倒じゃないの」
「……下だと、音がするだろ」
「なるほど」

暇なだけの移動時間は、本を読んでいることが多い。食堂車両に行くと何か食べたり飲んだりすることもできるが、今はいいか、と、下のベッドを陣取ってカバンを漁る。
人間が書いた小説を、最近よく読んでいる。

「おい」
「うん?」
「面白いのか、それ」
「割と。田噛も本は好きだよね」
「……」
「ちがった?」
「違わねえよ」
「ならよかった」
「どんな話なんだ、それ」
「学校にいけない……、いや、いかない? のかな。わからないけど。そんな人間達の話」
「ふーん。面白かったら貸してくれ」
「いいよ」
「あと、お前、」
「うん」
「この任務、いつも一人で行ってるんだろ」
「うん。ごめんね」
「……なんでそうなる」
「巻き込んじゃって」
「俺が一緒に来たのは、」
「助角さんに言われたからじゃないの?」
「……」
「違う?」

田噛は答えなかった。答えない、ということは、私は聞かない方がいいのか、あるいは、言いたくないのかどちらかなのだろう。もしかしたら、言うのが面倒なくらい、経緯が複雑なのかも。

「謝る必要は、ない」

田噛はそれだけ言った。
キッパリした言葉なのに歯切れが悪いから心配になるが、いつもより大分印象が柔らかい気がして、私は安堵した。

「そっか」

なら、よかった。苦手と思っているのは、私だけなのかも。


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20190101:心置き無く旅をしてくれ。

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