獄都事変 | ナノ


君と旅する三日間/前日  




この時期になると、毎年夜子が遂行している任務がある。
毎年毎年私はひとりで、半ば旅行へ行くような気分で数日間。

「今年は田噛と一緒に行ってこい」

助角さんの言葉を聞いて理解して、返事をするまでしばらく、残る夏の少なさを訴えかける蝉の声が、やたらと大きく響いていた。もちろん、返事は「了解しました」以外にはあり得ないけれど。
出発は明日、準備をしておけと言われて部屋を出る。今年は田噛と一緒。「田噛と」私の声は私が思っているよりずっと不安そうで、弱弱しく地面に落ちた。

「田噛と任務に行くことになった。三日間」
「……、ええっと、それを、どうしておれに言うのかな」
「困ってるから」
「田噛と一緒で?」
「平腹とか抹本って言われるよりは困ってないけど」
「ふうん? 何を困っているの? お酒飲む?」
「もらう。……何を困ってるかって言われたら、あれ、だと思う。私、田噛とそんなに仲が良くない」
「そう?」
「田噛も私も、そんなにしゃべる方じゃないから」
「それはそうだね」
「あんまり喋ったこともないから、ちょっと不安」
「田噛が嫌いなわけじゃないんだから、大丈夫だよ」
「私はそうだけど。田噛はそうじゃないかも」
「そんなことないと思うけど」
「そう思う?」
「うん」
「じゃあそうなのかも」
「なにがそんなに気になるんだい?」
「……なんだろ。私でごめん。みたいな。今回のことだって、いつもは私ひとりの任務なのに、付き合わせて。この間怪我したから、それで、助角さん、私ひとりに任せるのは不安なのかも」
「あははははは!」
「笑ってる……」
「あはは、ごめんごめん。でも、おれは大丈夫だと思うなあ」
「ほんと?」
「うん。もう一杯どうぞ」
「ありがとう。何かお土産買ってくる」
「楽しみに待ってるね。ついでに任務どうだったかも教えてね」
「それで」
「うん?」
「私は、何を話せばいいかな」
「あははははははは!」
「……」
「ははは、は、ふう、まって、ええっと、夜子はね、いつも通りでいいよ」
「いつも通り」
「そう」
「挨拶と、天気の話くらいで?」
「うん。完璧」
「それなら……なんとかなる気がしてきた……」
「なるよ! 大丈夫!」
「ありがとう。木舌。じゃあ、おやすみ」
「どういたしまして。役に立てたなら良かったよ。おやすみ」

その時はどうにかなるような気がして自室に戻ったが、布団に入って静かな天井を睨み付けていると、やはり少し、不安だった。
いいやしかし、友人である木舌が言うのだから、大丈夫なのだ、と言い聞かせて、どうにか眠りについた。


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20180905:よろしくおねがいしまあああああああすはじまりましたああああああああ

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