獄都事変 | ナノ


determination(10)  




デートとは。恋人同士が遊びに行くことだと木舌に教わった。「デートはしたの?」と楽しげに聞かれて、返答に困った為、今回出かけたわけなのだが。
終わってみればこの通りだ。
飛び出した先が畑だったせいでふたりとも泥だらけで、かなりの距離を歩いたせいで汗もひどい。ひとまず夜子の家に逃げ帰って、今ようやく一息ついて茶をいれてもらったところだ。
沈んだ気持ちのまま礼を言ってカップを受け取ると、夜子はいつもの調子でどういたしまして、と笑っていた。疲れてはいるようだが、楽しそうにしている。
カップを口へ近付けると、ふわり、とさっぱりした桃のような匂いがした。飲んでみると、少し、落ち込んだ心が救われた。

「すまない」
「え? お茶不味かった?」
「そうじゃない、これは美味い」
「それならよかった」

良くはない、のだが、夜子があまりにも普段通りに笑うから、考え込んでいるのがバカらしくなってくる。夜子も自分が入れたお茶を飲んで、それじゃあ、とエプロンに手を伸ばす。

「何か作るけど、なにがいい?」

夜子だって疲れているはずなのだが、その動作に一切の迷いがない。何故、だろう。夜子の考えていることがわからない。もしかしたら、俺では考えが及ばないほどに、気を使われているのかも知れない。

「だが」
「いいよ」

夜子の方はと言えば、俺がこうして不貞腐れている理由などわかってしまっているらしく、ただただ真っ直ぐ立っている。

「ほらまだ、デートは終わってないし」

俺は余程納得いかない、という顔をしていたのだろう。冷蔵庫をあさりながら振り返った夜子は、困ったように眉を寄せて、それでも笑っていたのである。
まだデートは終わっていない。
夜子の言葉を反芻する。そうなのか? 終わっていない? 水族館から帰ってきたのに?

「そうなのか?」
「お家デートって言ってね、ふたりだったらどこでもデートだよ。だからまだ大丈夫」
「男女が二人ならデートなのか」
「言葉としては、二人だけで遊ぶなら女の子同士でも使ったりするよ」
「そういうもの、だったのか」

ならば、そうか。はじめてその辺に買い物に出た時も、獄都へ行った時も、映画を見た時も、言葉を変えればあれはデートだったというわけだ。デートは何も、恋人だけの特権という訳でもない、と……。木舌に聞いていた話とは違うが、人間と獄卒で誤差があるのは当然だ……。ん? 木舌?

「夜子……」
「最後さえよければ、きっと、」

大丈夫なのだと、そう落ち込むことは無いのだと、夜子はそう言おうとしてくれたのだろうが、俺はその言葉を遮って夜子に詰寄る。冷蔵庫までゆらりと歩いていく。冷蔵庫の扉を閉めたところを狙って、どん、と夜子の横に手を付いた。
冷蔵庫を背に、夜子は俺と向き合っている。
これにも名前があった気がするが、忘れてしまった。それよりも。

「木舌と出かけたことがあったが、あれは」
「……ん?」
「あれも、デートと呼べるのか?」
「あ、」

明らかに、しまったという顔をしている。さては、俺の思うデートと、夜子の考えるデートの差異に気付いてしまったら、こうなるだろうと読んでいたに違いない。
「ああ、えーーっと、あれは、ほら」こういう場面は平腹に借りた漫画で見た。その時は男女が逆だった気がするが、関係ない。

「夜子、どうなんだ」

夜子は、困りに困った挙句、真一文字に引き締めた口に自分の口を合わせて「ごめんね、気をつけます」と両手を合わせた。
釈然としないままだが、続けて問い詰める気にもならず、諦めるしかないか、という気持ちになった。
これを、一言で表現する言葉を知っている。
ずるい、だ。


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20180826:次からは気をつけます。こんな感じのふたりの付き合うまでの話が94ページもある夢本になってます。通販対応させる予定ですのでぜひまたよろしくおねがいしますm(_ _)m

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