何かのスイッチでも起動したのだろうか。斬島くんはせっせとレジャーシートを広げながら、私に質問を投げかける。一番聞きたいことはなんだろうか。答えられることならいいけど。
「夜子は、何を見ていたんだ?」
ふたりでシートを広げて、その上に座る。
何を見ていた、とは、どういうことなのだろう。水槽を見ていた訳だが、きっとそういう事ではなくて。意味合い的には、何を見ていた、と言うより、何を考えていたのか、が近いように思う。
「ペンギンの毛並みとか見てたかなぁ、泳いでる時、なんだかこう、機能美、みたいなのを感じて」
斬島くんは、なるほど、頷いた。
中心にお弁当を置いて、水筒を取り出す。紙コップ二つにお茶を注いで、そのうちひとつを斬島くんに手渡した。ありがとう、と受け取ってくれる。
「一番よかったのはどれだ?」
「一番? 今のところは、シャチとかサメとかかな」
「! 強そうだったな」
「あはは、そうだね。強そうだった。大きいものはなんだか好きだし」
「おおきいもの……」
斬島くんがお茶をすすりながら難しい顔をしている。私はその様子を眺めながらお弁当の箱を開ける。我ながら悪くない出来だ。斬島くんが大事に持ってくれたおかげで中身も寄ったりしていない。
「それなら、夜子は、」
「うん?」
「見た目で言えば、木舌や助角さんの方が……」
「あははは!」
「どうして笑うんだ」
「いやごめん、面白くて……」
箸を手渡して、深く息を吸う。なるほどそうなるのか。発想が豊かなのか偏っているのか、私には判断がつかなくて思わず単純に笑ってしまった。「田噛よりは、俺の方が大きいが」追加で呟かれた言葉で、余計笑ってしまう。
「それで?」
「ううん、たぶんその話とシャチとサメの話はあんまり結びついてこないと思う」
どちらかと言えば、斬島くんの言うのは好きなタイプの話しだ。好きになる人間の傾向の話で、しかしそれすらも、私たちに適用できるかと言われれば微妙な話であった。私は人間で、彼は人間ではないのだから。
「だが、大きいものが好きなんだろう?」
「好きだね」
「やはり俺も、大きくなれるように努力しよう」
「止めはしないけど……、そのままで大丈夫だよ」
「しかし、」
一体何が引っかかっているのか、斬島くんは尚も難しい顔のまま。そもそも私は斬島くんの姿形を好きになったみたいなところがあるのだから、そんなに不安になることはないのに。
「とりあえずお昼食べようか?」
「ああ。いただきます」
「どうぞ」
お茶が無くなっているから継ぎ足しながら、斬島くんの様子を伺う。おにぎりから手をつけて、卵焼き、唐揚げと箸を伸ばしていく。
惚れ惚れするような食べっぷりだ。表情がないのにちゃんと美味しそうに食べてくれているのがわかる。私はひとまず安心して自分の方の箸もすすめる。
「……」
斬島くんはただただ無言で箸をすすめている。感想を聞いてみたいが、邪魔をするのも憚られるような真剣さだ。「ふ、」ああこんなに笑っていたら、また、斬島くんに不思議がられてしまうかも。
「夜子?」
「う、ん、ううん、なんでもない……」
「食べないのか。美味いぞ」
「ありがと、食べるよ」
「一つ聞きたいんだが」
「うん?」
サラリと褒めてもらえて嬉しいが、気を抜くと笑ってしまいそうになる。頬に食べ物を詰めて、ある程度すると飲み込んでいく。
「楽しんで、もらえているだろうか」
私はキョトンと目を見開いて、数秒後、とうとう耐えられなくて吹き出してしまった。私こそ、斬島くんが楽しめているか心配だったところだ。
「見ての通り、最高だよ」
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20180825:斬島くんも相当面白いから…