獄都事変 | ナノ


大阪土産を貰う話/ALL  





館に帰ってくるなり聞こえたのは、かわいい後輩たちが言い争う声だ。声に従って様子を見に来たらキッチンにて、揃いも揃って言い争いをしているところであった。言い争い、どころか、奥で繰り広げられているのは本気の喧嘩では?
まず、斬島と谷裂と平腹が部屋の奥で自らの得物を打ち付け合っている。あれはなんだろうか。「先輩に土産を渡すのは俺だ」「黙れ斬島! それは俺の役目だ!」「オレが渡すって言ってんだろ!」土産を渡す権利について争っているようだ。なるほど。後でどうにか止めに入ろう。
それから、田噛と抹本、木舌に佐疫が言い争いをしているのはなんなのだろうか。少し近付くと声が聞こえてきた。「お酒も混ぜない?」「そ、そんなの入れたら薬の成分が変わっちゃうから……」「お酒も薬も入れなくていいから! ダメだよ入れたら!」「抹本。入れるならもっとピンクっぽい薬を、」「田噛!」異物混入を必死に佐疫が防いでいる、と。
私になにかお土産があるらしい。だが、それを誰が渡すか、また、中身に薬を混ぜるか混ぜないか、でもめている、と言ったところだろうか。できれば即刻言い争いと喧嘩をやめてもらえると嬉しいけれど、みんな必死でこちらに気付いていない。
とりあえず、今にもキッチンを破壊しつくしそうな規模の争いから止めていこうと、斬島、谷裂、平腹の中心に立つ。ちょうど三人がぶつかりにきたところ、間に入って。

「っ、せんぱ、」

真正面から受け止める、なんて助角さんのようなことはできない。私ができるのは被害が少なそうなところに力を受け流すことくらいだ。三人がぶつからないように力の向きを少し逸らしながら、棚や食材がないところに誘導した。
斬島と谷裂はどうにか壁にぶつかる前に止まったが、平腹は勢い余って壁にぶつかっていった。がしゃん、という音で、みんなの視線がこちらに集まる。

「先輩!」

みんなが同じように私を呼ぶから、遅ればせながら「ただいま」なんて気楽な挨拶をしてみせる。私に気付くと近くまで来てくれたから、この大惨事は一体何事なのか、きっと話してくれるだろう。

「こんなところで暴れると危ないよ」
「ご、ごめんなさい。えっと、俺たち、その、先輩にお土産があるんですけど、そのことで、いろいろともめてしまって……」
「お土産?」
「お酒に合うやつだよ。みんなで選んだんだ」
「アイデアを出したのは俺だろうが」
「へえ、楽しみだね。今もらえるの?」
「あ、ま、待って下さいまだ、薬が……」
「止めろ抹本。その薬は昨日俺たちに試して笑いが止まらなくなったやつだろう」
「すいません、お手数をおかけしました……、それで、これは、」
「ん? あれ? センパイ……、センパイ!? そしたらたこ焼きまた食える?」

後輩たちの視線が平腹に突き刺さる。私がもらえるものというのは、たこ焼き? ひょこり、と佐疫が背中に隠しているものを覗き込むと、たこ焼きそのものではなくて、たこ焼きを焼く機械と、材料がたくさん置いてあった。サルでもできる、簡単、たこ焼きの材料詰め合わせ、ソース付き……?
今から作るところだったのかもしれない。

「これ、私に?」
「一緒に食おーぜ!」

それは、楽しそうだ。助角さんと災藤さんも呼んで来よう。ところでたこ焼きパーティーと言えば一番の楽しみはいろんなものを入れられるところにあるはずだ。キムチとかチーズとかおもちとか、ネギとかもあればあるだけいいだろう。任務から帰ってきて疲れていたはずだが、楽しくなってきた。

「報告書を出して来たら、みんなで焼こうか」

みんなでたこ焼きを食べる。ううん。魅力的。みんなも目を見合わせて頷いていた。よし、ならばそれで再出発だ。

「先輩」
「うん?」
「おつかれさまです」

私は手をひらひらと振って助角さんの部屋へ向かう。「ありがとう」言い残した言葉におかしなところはないけれど、声音がいつもよりずっと弾んでいた。
みんなでたこ焼きか、楽しそうだ。いや、楽しくならなきゃ嘘だ。
ただ、再び聞こえてきた轟音が気がかりだ。早めに戻らなければ、キッチンが先ほど訪れた時と同じ形で存在し続けている保証はない。現に、また何か硬いものを打ち付け合う音が聞こえ始めた。ついには銃声まで響いて、これはとうとういそがなければ。本当にキッチンが危ない。
私は報告書を握り込んで、小走りで助角さんの部屋まで向かった。そうしたら滞りなく報告して、なにもなければ、ふたりも誘おう。
数秒後、館が揺れるくらいの轟音が響く。館に返って来た時と同じ音をさせていた。元気なのはとてもとても良いことだ。
だが、ううん。しかたがない。今回は、助角さんに止めてもらおうっと。


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20180824:夢道楽で配ったやつ。なんでもいいからわいわいしたい。

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