獄都事変 | ナノ


箱に詰められたいA/斬島  




※唐突に箱に詰められています。

大抵の事は、まあそういうこともあるよね、と流せてしまう私でも、これはちょっと意味が分からない。ただ舘を歩いていただけなのに、視界が真っ黒になって、次の瞬間、酷く小さな空間に閉じ込められていた。箱詰めにされている、という表現がきっと的確だ。
箱に詰められたことはもちろん意味がわからないが、更に分からないのは、斬島くんも一緒であるというところ。

「夜子、きつくないか」
「んん、ありがとう、大丈夫」

大丈夫とは言うが、壁にそって斬島くんが座っていて斬島くんを背もたれにして私が座っている。狭いから体勢を変更するのも難しそうで、離れることも全くできない。
わからないことはもうひとつある。

「中からは空けられそうにないな」
「そうだね……」

腹に回った斬島くんの手に、ぎゅうぎゅうと力が加わっていくことだ。部屋が狭くなっている訳では無い。そろそろ痛くなってきたから、私は私の手で斬島くんの腕に触れる。

「どうした?」
「いや、ちょっと、痛い、から……」
「! すまない、これくらいなら大丈夫だろうか」
「……うん、それなら、痛くはない、けど」

手を離す、という選択肢は彼の中に存在しないのだろうか。これ、今、結構な非常事態だと思うのだが、もしかして、斬島くんたち獄卒にとって、閉じ込められたり閉じ込めたりというのは、さして珍しいことでもないのかも。
力は緩めてくれたけれど、ピタリとくっついたまま。

「夜子」
「ん?」
「もう少し力を入れても構わないか?」

切なげな熱い息が耳にかかる。言葉を返すのは恥ずかしくて、ひとつ頷いた。構わない。それくらいならいいのだけれど。ぐ、と宣言通りに力が入る。ぐええ。痛い痛い。もう少しどころの騒ぎじゃない普通に体の組織が壊されそうだ。

「斬島くん、斬島くんちょっと、」
「夜子」

熱の篭った声がする。私は痛みに耐えながら、斬島くんの話を優先して言葉を待つ。まあ、痛いけれど、まだ壊れるには至らない。

「こうしていると、」
「うん」
「……」
「ん?」
「夜子は、」

苦しそうな息遣いに、私は思わず唾を飲み込む。ごくりと喉が鳴った音は、もしかしたら届いてしまったかもしれない。
斬島くんの腕の力はまだまだ強くなっていくし、首筋に斬島くんの前髪が触れた。

「こういう時、どうしたらいいか知っているか……?」
「……こういう時?」
「ああ」
「こういう時……」

もちろん、大人しく助けを待つのが一番だが、たぶん、斬島くんはそういうことを言っている訳ではない。

「夜子のにおいしかしない」

遂に、斬島くんの歯が首筋に食い込む。人より鋭い歯が、肌に食い込む。ざらりとしたものが肌に触れる、そんな所を舐めても、塩辛いだけだ。
私に恐怖はないけれど、どちらかと言えば、斬島くんの方が不安そうだ。
ああ、もう少し、時間が欲しいけど。どうしようか。

「斬島くん」

さらり、と斬島くんの髪を撫でると、そっと肩から口が離れた、私は無理のない程度に首を回して斬島くんを見上げる。また、距離が近付く。このままいけば、唇と唇がぶつかるだろう。
ここで、宥めるみたいにキスをすることは、果たして。

「え?」

箱が、粉砕する派手な音がした。

「おい」

見上げると、ツルハシを担いだ田噛くんがいた。彼が助けてくれたらしい。私は素直に礼を言ったが、斬島くんはしばらく田噛くんと睨み合っていた。


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20180816:軽率に箱につめたそのに。

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