獄都事変 | ナノ


determination(02)  




水族館が好き、と夜子が言ったから、行こう、と決めた。夜子も仕事を手伝ってくれたり獄都に遊びに来たりしてくれていて、会うことはできるが、ふたりで出かけようと思うと難しい。色々用意しとくから、と夜子は笑って、お弁当とか、と付け足された言葉に俺は思わず周囲に誰もいないか確認した。今のところ、邪魔は入りそうにない。キリカさんとはまた違う味付けをする、夜子の料理もとても美味い。
任務でも世話になっているし、なにか俺にも用意できれば、と考えていた時、たまたま、佐疫が通りかかった。
丁度いい、と俺は佐疫に意見を求める。

「え? 夜子さんが喜ぶもの?」
「ああ」
「……夜子さんなら、なんでも受け取ってくれると思うけど」
「いや、そうでなく」
「え?」

夜子のことを思い出す。佐疫とはまた違うゆるやかさをもって、人間らしく微笑む夜子。俺たち獄卒のような強さはなくとも、あらゆるものに向き合って、危ない場所にも飛び込んでいく。俺が知っている誰のものよりも、澄んだ湖畔のようにきらきらした目をしているのである。
そんな彼女の瞳が。

「でーと、で、されたら嬉しいことは何だろうか」

思い切り、喜びの気持ちへ振れる様が見てみたくて、考えている。もしかしたら田噛のほうがよく知っているのかもしれないが、田噛はきっと教えてくれないだろう。夜子の恋人は俺だけれど、田噛も夜子が好きだからだ。ことあるごとに邪魔をしてくる。例えば昨日など、夜子にもらった菓子を奪われたし、一昨日の任務中は全く夜子から離れなかった。
まあ、田噛のことはいい。
田噛のことはいいのだ。

「難しいね……。どういうことがしたいの?」
「恋人らしいことがいいのだが」
「恋人らしいことかあ……」

佐疫は少し考えて。

「どう、なんだろう……、普通にエスコートする、じゃあダメ?」
「えすこーと?」

少し考えただけで、ひとつの提案をもらった。流石だ。ただ、なんとなく、イメージが掴みづらい。普通にえすこーと、とは?

「手を繋いで、一緒に歩いていたら、恋人にしか見えないよ」

そのくらいならいつもやっているし、それは、確かに、俺はとても嬉しい。けれど、夜子にとってもそうなのだろうか。俺と一緒に歩いて、境界がわからなくなるくらい掌を合わせて、そうしているとあたたかくて満たされる。そうだとしたら、それは相当良いことだ。

「……ありがとう、佐疫」
「ううん、役に立てたかな?」
「もちろんだ」
「そっか、楽しんできてね」
「ああ」

もう少し、人間の言う、普通のデートというものを勉強してみよう。
まずは、夜子との時間を確保するために、今与えられている任務を全速力で片付ける。


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20180804:個人的には箱につめたり部屋に押し込んだりしたい。

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