獄都事変 | ナノ


determination(01)  




私は人間だが、私の恋人は人間ではない。
世界には、そんなこともあるのだろうが、滅多にないことだと思っている。気軽に人に話せる内容ではないし、深刻になるのは無駄な話である。恋人になろうと決めた時、あまり深くは考えないようにしようと心に決めた。だから、我々は存外ゆるくやっている。
思ったよりも私が思い悩むことがないのは、私が深刻になるより先に、恋人という関係に興味津々な彼が、私の代わりに深刻になってくれるから、なのだろう。
無表情だが、青色の目はいろいろなことを教えてくれて、彼の考えていることやりたいことは、大体予測がつくようになってきた。
付き合い始めて、ひと月程が経過した、ある日のことだ。

「でーと、というものをしてみたいのだが」
「うん」
「構わないだろうか」
「……まあ」

私は、今日まで買い出しに出かけたり斬島くんが家に遊びに来たりしているのを、ふたりきりならデートであると思っていたのだが、彼にとってはそうではなかったらしい。別にショックとかではない。ただ、認識の差をなるほどな、と納得することで調整した。
ここで私が焦って、あれとかあれとかはデートじゃなかったのか、などと言うと、デートの定義について考える会になってしまいそうだったのでやめておく。下手をしたら、木舌くんにおすすめのお酒を教えてもらうために出かけたのはなんなのか、という話になりかねない。むやみに薮をつつくものでは無い。

「どこか行きたいところがあるの?」
「! いいのか!」
「それはもちろん……」

いや、待った、ええと。

「ふたりで出かけたいってことだよね?」

一応確認のため聞いてみるが、斬島くんはこくりと頷いた。「そうだ」大体のイメージは共有出来ているらしい。「それで、」と斬島くんが続ける。行きたいところについて。

「俺は、」
「うん」
「…………」
「…………? 大丈夫?」
「すまない。場所までは考えていなかった……」
「んん、そっか」

情報源はどこなのだろうか。私は何度も頷いて、スマートフォンを机に置いた。デート、検索、で、出るわ出るわオススメの場所からデートのタブー、そもそもデートとは何か、ということまで。ひとまず定番デートスポット、と書かれたタイトルのページを開いた。
私が、画面をすい、と動かすと斬島くんもスマートフォンを覗き込む。

「どこがいいだろうね」
「夜子は行きたいところはないのか」
「私は水族館とか好きだよ」

スクロールしていたらたまたま見つけた水族館の写真を指さす。ここにはシャチがいて、ショーなんかもやっている。デートスポットとしては定番だ。

「よし、そこにしよう」
「ええ? 斬島くんが行きたいところでいいのに」

顔を上げると、すぐ正面くらいに斬島くんの顔があって驚いた。しかし、斬島くんはそれどころでなく、私の言葉に返答をくれようとして忙しい。ふるふると首を左右に振ってから、真っ直ぐに言う。

「俺は夜子がいるならどこでもいい」

私は2秒固まった後、またスマートフォンに視線を落とす。斬島くんの油断ならないのはこういうところだ。本心から言っているのがわかる。と言うより、斬島くんがこの手の話題でふざける方が想像がつかない。

「……んん、えっと……、いやあ……、そ、そう?」
「そうだ」

そうであるらしい。
……、そうであるらしい。

「……うん、ありがとう」
「? 礼を言われるようなことではない」
「そうだね。じゃあ、」

少し、言葉の流れが止まってしまったのは、斬島くんがあまりにも改めてその言葉を使ったせいだ。私も同じように使うのが恥ずかしくなった。
少し深めに息を吸い込んで、それでも私も、その言葉を使ってみる。

「デート、しよう」

今まで何度かしていることでも、改めて、新しく。


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20180730:付き合う前までの夢本(94ページ)が出ます。よろしくお願い致します。

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